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第459話 迷夢

探偵は斜陽街を歩く。

勘が斜陽街を示している。

ならば斜陽街のどこかに、

探す夢はあるはず。

どこかから迷い込んだのかもしれないし、

あの少年が落としていったのかもしれないし、

あるいは。

誰かが抉っていったのかもしれない。

最後の可能性は、どこかから勘に響いてきたものだ。

これではないなと探偵は思う。

否定するのは、探偵の勘だ。


探偵は、斜陽街を勘のままに歩く。

しかしそれは、迷っているようにも感じる。

探偵は立ち止まり、

斜陽街の風を感じる。

何かが来る気配はあるか、

何かが去る気配はあるか。

あるいは、何かが生じる気配はあるか。

斜陽街の住人なら、

風の色すら見える。

色といっても、空気が極彩色に感じるわけではない。

ただ、気配が色づいて感じることができる。

探偵や扉屋、妄想屋などが、

そういうものに敏感かもしれない。


「迷夢」

探偵はつぶやく。

迷う夢と書いて迷夢。

悩むことだと聞いた気がする。

あの少年の失った夢は、

斜陽街のどこかで、迷っているのだろうかと。

探偵はそんなことを思う。


勘が響く。

夢はまだかたちになっていないと。

誰かがかたちにしてくれるまで、

斜陽街のどこかにあると。

ある、と。


探偵はその勘を肯定した。

今度の響いた勘は、多分、信じられるものだ。

ならば、夢がかたちになるまで待つか。

いや、歩くのだ。

とにかく、迷う勘の赴くがままに、

それが斜陽街に迷い込んだ夢のかたちを知ることであり、

やがて手に入れるであろう、

少年の夢を、感じやすくするための、

これは、儀式かもしれない。


悩んだ果ての夢は、うまいものだと。

なんとなく探偵は思う。

少年も悩んでいるだろうか。

探偵は、歩く。

世界一と呼ばれた、プライドにかけて、

迷いの果てに夢を見つけ出すと、

探偵は意地をかけている。


斜陽街の風は、

いつものように吹いている。

探偵は颯爽と歩く。

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