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第460話 絆

斜陽街一番街。

電脳中心に、キタザワは来ていた。

ヤジマの姿が見えない。

探しても探してもいない。

思いたって来たのが、電脳中心というわけだ。

「お願いします!」

キタザワは土下座せんばかりの勢いで頼み込んで、

電脳娘々は、半ばあきれた調子で引き受けた。

「そんなにしなくても引き受けるのに」

「それでも!」

「はいはいわかった、ヤジマの居場所ね」

「お願いします!」

電脳娘々はため息をついた。

いつもの電脳の中心にいって、

ゴーグルをかけ、コードをつなぐ。

部屋に満たされた機器が、フル稼働をしているのが、

機械に疎いキタザワでもわかる。


(見つかってください)

キタザワは祈る。

(俺を置いていったりしないでください)

キタザワは心のヤジマに懇願する。

苦笑い、怒鳴りつけ、時には不安そうな顔も見せ、

化粧っ気のいまいち少ない、ヤジマの表情。

キタザワにとってはヤジマが世界のすべてだった。

強盗だって怖くない。

つかまることだって怖くない。

ただ、ヤジマがいればいい。

いなくなって気がつく。

本当に、ヤジマが世界の中心だったと。


「見つけたよ」

電脳娘々がコードをはずしながら告げる。

「本当に!どこですか!」

「あせらないあせらない」

部屋の一角で印刷をしている音がする。

「もうすぐ印刷出るよ、それを持っていくといいよ」

キタザワは唇をかみ締める。

一秒だって惜しい。


「キタザワ」

電脳娘々がたずねる。

「何がキタザワを、そうさせるんだい?」

キタザワは言葉を探す、何だろうかと。

そして不意に、言葉がひらめく。

「絆、かもしれません」

「きずな、ね。いい言葉だね」


電脳娘々は、プリントアウトされた用紙を手渡す。

「厄介なことになってるかもしれない。それでも?」

「それでも!」

間髪いれずにキタザワは答える。

電脳娘々は満足げにうなずいた。

「ヤジマとキタザワで、宅急便屋だよ。あんたたちは」

「はい!その通りです!」

キタザワは駆け出す。

その背中を、電脳娘々は見送った。

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