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第463話 猫耳

斜陽街二番街、通称猫屋敷。

猫がたくさんいる屋敷だ。

行儀よくたくさんの猫が暮らしていて、

猫屋敷の女主人が、いつもゆったりと猫の世話をしている。

猫は基本家猫だが、

ふらりとどこかに行っては、

居心地がいいのか、猫屋敷に戻ってくる。

女主人も閉じ込める真似はしないし、

猫も気ままに振舞っている。


猫の耳は、

時折、人に聞こえないものを察することがある。

そんなことを、猫屋敷の女主人は思う。

すべてがわかるわけではないが、

斜陽街の外の不思議な音を、

時折、猫は聞いているのではないかと、

そんなことを思うことがある。


いつものように餌をあげていると、

不意に、猫の耳がぴくっと反応する。

「あら?」

女主人は、なんだろうと思い、

次いで、ほかの猫も何かを聞いているのを確認する。

「何か聞こえるのね」

女主人も耳を澄ます。

でも、それらしい音は聞こえない。

猫が、鳴きだす。

いつもはおとなしい猫達が、

何かを訴えるように鳴いている。

「どうしたのかしら?」

何が聞こえたのだろう。

女主人にはわからないが、

猫達は何かを聞いた。

それを女主人に訴えかけている。

にゃあにゃあとしか聞こえないのがもどかしい。


「誰か猫の言葉がわかる人がいればいいのにね」

女主人は、猫の頭をなでた。

なんだか、

『ちがうんだ』

と、言われたような気がした。


『夢にとらわれているんだ!早く!』


誰かの声が、耳に聞こえた気がした。

声は意味を持っていたような気もしたが、

やがて記憶の中でも、

声はにゃあにゃあにとってかわられた。

言葉が何だったのか、もうわからない。


猫の耳に何かが届いたから、

猫達は必死に何かを伝えようとしている。

女主人はわからないなりに納得する。

「みんな、何かを聞いたのね」

猫はうなずくような動作をして、

『ごめんで終わらせちゃいけないよ!』

とでも言うかのように、にゃあと鳴いた。

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