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第464話 紅烏

斜陽街のどこか。

空飛ぶ魚のシキと、どこかからやってきた絵師は、

神屋をあとにして、ぼんやりと歩いていた。

シキはふよふよと飛ぶ。

風がかすかに吹いて、

絵師の少しだけ長い髪を揺らす。

絵師の糸目は何を見ているのかわからないが、

何かを探しているかのようにも見えた。


「なぁ」

シキが声をかける。

「はい?」

絵師が答える。

「あんたの絵は不思議だな」

「そうっすか?」

「色がにじんでいるような感じだ」

「よく言われます」

「なんか秘密があるのかい?」

「秘密というか…」

絵師は絵筆を取り出す。

筆は紅色だ。

「紅烏という名前を持った筆です」

「べにからす?」

「詳しいことはわからないっす」

「ふぅん…」

シキは紅烏をまじまじを見る。

「いろいろ筆を渡り歩きましたけど」

「ふむ」

「紅烏が一番イメージに近くなれる気がします」

「そういうものか」

「そういうものっす」

絵師はそう結んだ。


絵師は糸目で何かを見る。

風が吹いたような気がした。


絵師は、懐から紙を取り出す。

「彩れ、紅烏」

一言つぶやくと、絵師はものすごいスピードで紅烏を走らせる。

シキは、その様子を見ている。

真剣な空間を感じる。

何かイメージを捕まえたのだろうと、

もやもやした何かの尻尾を捕まえたのだろうと。

シキは勝手に思う。


極彩色の風景。

夢の風景のようだと、シキは思う。

紅烏は彩り、

絵師は走らせる。

迷いも淀みもない筆。

その筆は、今まさに何かを描かんとしていた。

呼吸をするように、とんでもないことをしているんじゃなかろうか。

シキは思ったけれど、

彩りの空気にのまれて、何もいえなかった。


絵が出来上がるのは、それからまもなく。

絵師はため息をつき、

シキもため息をつく。

衝動のままの計算づくのような、

不思議な絵が出来上がる。


「何の絵だい?」

「さぁ?描きたくなったので」

絵師は困ったように微笑んだ。

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