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第466話 反乱

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


歌う獣。

夢を裁かれ、抉られ、心の崩れた者。

夢なき獣に成り下がったもの。

反乱組織は、歌う獣を利用することになった。

思惑は様々あるけれど、

夢なき獣は利用された。

使い捨てのコマとして。


反乱の火の手が上がる。

それは瞬く間に国に広がる。

歌う獣は感情を制御できない。

反乱の風に吹かれるのを、

歌う獣はとめられない。

主義主張でなく、

歌う獣は風の進む方向に流れる。

風は反乱に吹いている。

国を転覆させる方向に吹いている。

歌いながら、そちらに向かうことを、

歌う獣はとめられない。


夢はどこに行ったのだろう。

遠吠えはそんなことを問うているようであり、

悲しげであり、

または、うつろのようでもあった。

空っぽの器に共鳴をさせているような。

そんな、反乱という現象。

皆が立ち上がったわけでない。

国が、鬼が、悪だと、

歌う獣は認識しているわけではない。

ただ、そちらに行けと、風がいっているだけ。

行けばどうなるのだろう。

歌う獣はわからない。


わからないけれど、

夢が抉られたところが、

痛まなくて済むのなら。

もう、心のくずれるのを聞かなくて済むのなら。

その果てが、何だったとしても。


歌う獣は、歌う。

祈るように、ほえるように。

国は変わる。

風の吹くままに。

獣にその先なんてわからない。


夢はどこに行ったのだろう。

裁かれ抉られた夢は。

本当に消えてしまったのか。

あるいは、

夢なんて曖昧なものが、そもそもなかったのか。

鬼なんていなかったのか。

無意識まで裁こうとした、

国や国民がおかしかったのか。


もう、いまさら問うものはいなかった。

国は戦火で焼かれる。

獣は鳴く。

人は泣く。

そこには意味などなく。

悲しいくらい曖昧なものにすがりついた、

悲しい滅びがそこにあった。

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