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第468話 魔女

斜陽街二番街、占い屋。

ここは、いわゆる占いの館というやつだ。

占い師が何人かいて、

それぞれの手段で占ってくれる。

店内には香のにおいがたちこめ、

軽くトリップする感覚がある。


ここを取り仕切るのはマダムクイーンビーこと、

占い屋のマダムだ。

今日も今日とて、ファッションショーに出てきそうな、

不思議な格好をして、

占い屋の奥にゆったり腰掛けている。


螺子師はそんなところにやってきた。

螺子師はネジを扱う仕事。

占い屋の機材などの調整も時折する。

ライトだったり、スモークだったり、

雰囲気を作るのは、それなりに大変らしい。


「…と、はい、一通り見ました。大丈夫そうです」

螺子師は商売道具の器具を片付けながら言う。

「ありがとう、やっぱりプロね」

マダムは艶然と微笑む。

螺子師はちょっとボーっとマダムを見たあと、

ふるふると頭を振って、

商売用の表情に戻る。

マダムはそれがおかしかったらしく、

くすくす笑った。

「…なんですか」

「かわいいわね、螺子師さん」

マダムは、すっと螺子師との距離を詰めてみせる。

「…あの」

「なぁに?」

「あの、機械は、大丈夫、ですから」

「だから、なぁに?」

「俺、帰っても、いいですか?」

「だぁめ」

マダムは一瞬だけ真顔になり、

螺子師はその表情でひるむ。


ひるんだ螺子師を認めて、

マダムは笑い出した。

「冗談よ、螺子師さんをコレクションしたら、困る人がいるもの」

「ああ、はい…」

「螺子師さんならネジドロボウさんが…」

マダムは意味深に言葉を区切る。

気がつかない螺子師ではない。

「なんであいつが!」

「あら、仲良しじゃないの?」

「違います!」

マダムはころころ笑う。

「コレクションされるのも悪くないんじゃないかしら?」

「あなたにしても、あいつにしても、お断りします!」

螺子師は言い切ると、器具を片付けてさっさと帰り支度をした。


マダムはちょっと残念そうに螺子師を見ている。

螺子師は、マダムのそういうところが、

魔女みたいだと思った。

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