斜陽街のどこかの路地。
絵師とシキは、一休みする。
「なんだろうな」
シキは、先ほど絵師が描き上げた絵を覗き込んでいる。
「わかりません、衝動っすから」
絵師はそういうが、
シキは絵が気になっているようだ。
「なんかさぁ、どっかに行くべきなんだと思うんだよ」
「何がっすか?」
「この絵というか…そうだなぁ」
シキは考え込む。
そして、続ける。
「こうして形になった、これ、が、どこかに行くべきなんだと思う」
「よくわからないっすね」
「斜陽街に居ついたものの、ひらめきみたいなもんだ」
「ふぅん…」
絵師は自分が描き上げた絵を見る。
相変わらず、紅烏はいい仕事をするなというのと、
極彩色のにじむような絵だ。
彩が走る絵。
衝動に似た何かが形になったもの。
一休みしている彼らの元に、
足音が近づいてくる。
絵師は気配を察して、何かを構えようとして、
紅烏しかないことに気がつく。
「誰っすか?」
絵師は声をかける。
「勘がこっちだといってるんだ」
足音の主は、路地にひょいと入ってくる。
「ああ、探偵じゃないか」
「たんてい?」
絵師は探偵というものが、わからないらしい。
「探偵ってのは、いろんなものを探すんだ」
「へぇ」
「で、斜陽街の探偵は勘がいいんだ」
「なるほど」
絵師は一応納得する。
「それで、何が勘に引っかかったんだい?」
シキはたずねる。
探偵はあたりを見回している。
「このあたりに、何か最近かたちになったものがあるはずだ」
「最近…?」
シキは問い返し、はっとする。
「おい、その絵じゃないか?」
「ああ、そういえば最近っすね」
「絵か、見せてくれないか?」
「いいっすよ」
絵師は極彩色の絵を、探偵に渡す。
探偵の目が、鋭く光った気がした。
「これだ」
探偵は短く言う。
それ以上の言葉がないかのように。
「持っていっていいっすよ。そうあるべきなんすよ」
絵師はなんとなくわかった。
多分そうあるために、
絵師はここに来たのかもしれない。
「ありがとう、感謝する」
探偵はそういうと、路地を後にした。