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第472話 勇気

キタザワは電脳娘々が検索した扉をくぐる。

この先にヤジマがいるはず。

キタザワは、印刷された紙を見る。

それによれば、ヤジマはとらわれている可能性が、

とても高いということ。

ほぼ確実だろうと。


扉はどこかの国の、町の片隅につながっていた。

あてのない国。

でも、調べはついている。

この国のどこかに、

ヤジマはとらわれている。

(勇気をください)

キタザワは心に思う。

(どんな悪党にも負けない、勇気をください)

深呼吸をひとつ。

 ヤジマは、待っていないかもしれない。

それでも。

 キタザワが来ることを、望んでいないかもしれない。

そうかもしれない。

 それでもヤジマのもとにいくというのか。

「当たり前です」

キタザワの心が落ち着く。

ヤジマとキタザワで宅急便屋だし、

ヤジマがいやな目にあっていれば助けるし、

なんとしてでもヤジマを返して欲しい。

何を代償にしてもかまわないと、初めて思った。


キタザワは駆け出す。

歌の満ちる国の中を。

人が獣のように歌っている。

何かを揺さぶるような歌だ。


キタザワは駆ける。

獣のように歌う人の群れのどこかに、

ヤジマの背中を探してしまう。

もしかしたらと思ってしまう。


ギャングのもとに、

ヤジマはとらわれているという。

キタザワは情報のそこへ向かう。

歌が聞こえる。

夢のように歌っている獣の歌。


今のキタザワに敵はいない。

キタザワは一人の鬼に近いものになっていた。

「ヤジマさん…」

その名だけを呼ぶ。

勇気はいつでも心の奥底にある。

気がつかないうちに、キタザワはそれを見つけていた。

鍵はヤジマ。


ヤジマのためなら、

キタザワは何だってできた。

いままでも、これからも。


キタザワは、情報にあったギャングの居所を見つける。

(怖くなんかありません)

キタザワは心につぶやく。

(ヤジマさんを失うことに比べたら)


この勇気の前に、敵は、いない。

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