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第473話 細雪

「さすがに斜陽街に雪はないでしょう」

合成屋はそんなことを言い出す。

「何とか降ったら面白いですかね」

そこにたまたま居合わせて砂屋が、そんなことをいってみる。

「雪は後始末が大変ですからねぇ」

「後始末に困らないなら、雪もいいものですけど」

「そこなんですよねぇ…」

と、合成屋は困ったようなそぶりをする。

合成屋はのっぺらぼうの仮面をかぶっていて、

いつものように、表情はわからない。

砂屋はそれを気にするわけでもなく、

合成屋と一緒に悩む。


「雪のような砂を降らせるってどうでしょう」

「砂、ですかぁ」

「砂でしたら、操れますし」

砂屋は当然のように言う。

そうでなければ斜陽街で砂は売れないとでも言いたげに。

「ふぅむ…」

合成屋は考え込んで、

「そうだ!」

と、何か思いついたらしい。

「砂屋さん、適度に白い砂を少し持ってきてください」

「おや、何かしでかす気ですか?」

「降らぬなら、降らしてみせよう細雪、ですよ」

合成屋は楽しそうにそんな事を言う。

砂屋はにっこり微笑んだ。


合成屋の賢者の井戸に、

砂屋はほどほどの白い砂を持ってやってくる。

「こんなものでいいでしょうか」

「うん、上等」

合成屋は白い何かを用意している。

「なんですか?」

「とりあえず氷。合成しやすいように砕いてあるのです」

「なるほど」

「じゃ、はじめまぁす」

合成屋は間延びした声で宣言する。


賢者の井戸に、

白い砂と白い氷が放り込まれる。

合成屋はもにゃもにゃと何か唱えて、

賢者の井戸を蹴飛ばす。


たちまち立ち上る白い煙。

合成屋の店から、

ガラクタ横丁へと、

煙は広がっていく。

そして、のぼっていった白い煙はかたちになる。

細雪という現象になって。


「まぁ、この近所が精一杯ですけどねぇ」

「雪、ですね」

彼らは夢のようだと、思ったとか思わないとか。

斜陽街三番街に、

珍しい雪の降ったお話。

すぐに始末されてしまう、

頼りない雪の降ったお話。

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