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第479話 覚醒

探偵事務所に、探偵は一枚の絵を持って戻ってくる。

少年の目が誘っていた夢は、

勘が示すとおりならこれだと。

探偵は確信している。

ドアを開けると、少年は助手とお茶を飲んでいた。

「見つけた」

探偵は短くそういう。

少年は目を丸くして、

そして、お茶なんか忘れたように駆け寄ってくる。

「この絵が、夢を形にしたものだ」

「夢を…僕の」

「そう、カヨ。あんたの夢のはずだ」

「僕の」

探偵は、絵を差し出す。

カヨは、その絵をそっと手に取る。


カヨの視覚触覚を通して、

夢が再構築されて戻っていく。


ああ、僕は今まで夢を見ていたんだと。

カヨはそんなことを思う。

夢?僕の夢は失われて、

ここにこうして戻ってきたものじゃなかったのか?

いや、僕はずっと夢を見ていたんだ。

空を飛ぶ少女が守ってくれるなんて、

そんなの夢でしかありえないじゃないか。

だって世界一の名探偵が。

世界一ってそんなに簡単に見つかるものなのかい?


カヨは混乱する。

カヨの中で夢と現実と記憶が激しくぶつかっている。


目を覚まそうよ。

目を?

そして、夢のことは奥深くにしまうんだ。

いやだ。僕はもっと夢を見ていたい。

だめだよ。アキのことも忘れなくちゃいけないんだ。

アキ、それは誰だい、戦士かい?

アキは戦士かもしれない。

でも同時に誰でもないのかもしれない。

忘れちゃいけないんだ。

アキに夢を話してあげないと。

もう、彼女は彼女じゃなくなったよ。

君もこの夢を忘れるときが来たんだ。

それは時間の流れに乗って、必ず来るものなんだ。


忘れよう。

そして、目覚めよう。


カヨは覚醒した。

ぼろぼろ涙をこぼしながら、

心の痛みに耐えながら、

カヨは覚醒した。


カヨはもう、ここにいる理由を思い出せなかった。

目の前の男は少し寂しそうに微笑むばかりであり、

カヨは、帰らなければいけないと、

そればかりを思った。


涙が止まらないのは、なぜだろう。

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