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第480話 手腕

斜陽街番外地。鳥篭屋はそこにある。

鳥篭は帰ることができる。

あるべきところに帰るとき、鳥篭を使うと戻れる。

それが、この鳥篭屋の鳥篭の仕組みであり、

それ以上でもない。


鳥篭屋のおばさんは、張り切っていた。

鳥篭の注文が来ているのだ。

なんでも、鬼を帰したいという依頼だ。

鬼だろうが悪魔だろうが、

あるべきところに返すのなら、

鳥篭屋の出番だ。

何匹だって返すよと、鳥篭屋は張り切る。

ここが手腕の見せ所とばかりに。


結構な注文を、

鳥篭屋は一人でさばく。

さばけなかった鬼はいない。

何か引っかかった気がするが、

鳥篭屋はため息ひとつで吹き飛ばした。


夢を裁く鬼をどうしたこうしたってやつかね。

鳥篭屋は思う。

夢なんて、曖昧なほうがいいだろうに、

どうしてそこに線を引くかなと、

鳥篭屋は思う。


夢の鬼になったやつもかわいそうに。

鳥篭屋は思う。

どこに帰るんだか知らないけど、

安息の場所だといいね。

鳥篭屋は心をこめて鳥篭を作る。

それがちゃんと帰る道しるべになるように。


飛ぶように売れる鳥篭。

鳥篭の数だけ、

帰っていくであろう鬼。

ちゃんと帰れたかなんて、

聞かないし野暮ってもの。

でも、それだけの数の安息が訪れたのなら、

鳥篭商売やっていてよかったと、

鳥篭屋はそんなことを思う。


鬼は子供を追いかけ、

鬼は大人に追われる。

中間色のような、鬼。

誰か鬼に、立ち止まることを教えてやってくれないか。

夢の中の曖昧な景色に溶け込むことを、

誰か鬼に教えてやってくれないか。

鳥篭屋の祈り。

鬼さんこちらといわなくてもいい場所に、

寂しい鬼を連れて行きますようにと。


飛ぶように売れる鳥篭。

鬼を帰すために、特別に作られた鳥篭。

鬼ごっこの終わりを告げる鳥篭。

その一つ一つに、

鳥篭屋の腕と技術と、

確かな祈りをこめて。

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