目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第486話 夢路

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


国の重要人物たちは、

機械の神を組み替えなおした。

それは、人にわかる奇跡を起こすものに。

それは、最後を告げる時計のように。


スイッチが入れられる。

機械の神は、再起動される。

すべての機器がフル稼働して、

機械の神の冷たい血肉となっていく。

くずれた国を、健全な国に戻す、

そんな奇跡を皆、待っていた。

愚かしく思われるかもしれないけれど、

彼等はみんな真剣に待っていた。


「この国は、どうあるべきか」

重要人物が、問う。

機械の神は答える。


「夢に帰れ」


機械のその言葉は、呪いのように、祈りのように、

国を覆っていった。

まさしく機械の神が言ったように、

国は夢に包まれ、飲まれていった。

この国で現であったことが、

すべて夢に帰っていった。


夢と現の境目は、なくなった。

裁くものは誰もなくなって、

鬼も獣も人も、

同じように夢路を歩く。

永遠かもしれない。

有限かもしれない。

夢に帰ってきたのだと、

そう信じるには十分な時間がある。


夢は本来こういうものだった。

ゆらゆらと曖昧で、裁くものじゃなかった。

夢を裁くのは、

誰にもできないことだった。

この国自体が、おかしな夢だったのだ。

そして、夢に帰ってきた。

あるべき場所に戻ってきたのだ。


すべてが曖昧にとけて、

夢の要素になって漂う。

誰かが誰かの夢を見る。

今宵誰かの夢を見る。

そこにこの国は生きている。

審判を下され夢に帰った、

この国は生きている。


夢路を歩こう。

誰も地図のかけない、

夢路を歩こう。


そこにはあるはずのない国があった。

そこにはいるはずのない鬼がいた。

そこには歌うはずのない獣がいた。

そこには、夢があった。

矛盾を抱えた国の夢があった。


いつか目覚めるそのときまで、

夢路を歩こう。

いつか忘れてしまう、夢を見よう。


夢に、帰ろう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?