斜陽街三番街、がらくた横丁の螺子師の店。
今日も螺子師は元気に店を開けるところだ。
頭の螺子もおさまっている。
身体の螺子の調子もよし。
ここで言う螺子とは、螺子師という職業のものが感じ取れる、
身体の調子をつかさどるものである。
螺子が緩んでも締まりすぎてもいけない。
ちょうどいい状態にして、心身の調子を整える職業。
それが螺子師である。
螺子師はがらくた横丁に面するシャッターを開ける。
あまり大きくないそれを開けて、伸びをひとつ。
体操をちょっとして、いい気分。
さて、道具の手入れも念入りにするかなと、
螺子師が店の中に行こうとすると、
さっきは気がつかなかったけれど、
シャッターの降りていたあたりに、小さな箱。
「なんだこれ」
明確な不審物ではない。
ただ、斜陽街という町である以上、
何を起こすかわからないものも多いのは事実。
どうしたものかなと螺子師は考える。
考えていて、ある気配に気がつかなかった。
「見たところ何の変哲もない箱だね」
「でも、ここは斜陽街だしなぁ…」
と、螺子師が誰のものとも知れない声に答えたところで、
螺子師ははっと気がつく。
「螺子ドロボウ!」
「やぁ」
螺子ドロボウはいつものまじめにふざけた感じを崩さず、
笑顔を浮かべて挨拶する。
「いつもなら気配だけで噛み付いてくるのに、珍しいね」
「うるさい!」
螺子師は臨戦態勢を取ろうとする。
螺子ドロボウはすっと距離をつめて、
「これがパンドラの箱だったら、面白いと思うな」
と、螺子師の耳元でささやく。
「パン…いや、お前にこの箱は渡さない。危ない、絶対」
「ふーん…そういわれると欲しくなるから、…いただいたよ」
「なっ」
気がつけば不審な箱は螺子ドロボウの手の中に。
「追いかけて取り返してごらんよ」
「箱を返せっ!」
螺子ドロボウは逃げて、螺子師が追う。
いつもの斜陽街の風景である。