斜陽街一番街に、ヤジキタ宅急便屋はある。
ヤジマという気の強い女性と、
キタザワという大型犬のような男の、
二人で営業しているお届け物屋だ。
ある日、宅急便屋に届け物の依頼。
依頼といっても、荷物だけがどこかから届いて、
中の荷物を転送してくれということらしい。
荷物を受け取ったのはキタザワで、
珍しく何の疑いもなく、自分に届いたものだと思ったらしい。
あとでヤジマはこっぴどく怒ったが、
叱られました、とても落ち込んでいますというのを、
目に見える態度で示しているキタザワを見て、
ヤジマは大きくため息をつき、叱るのをやめた。
悪気はないのだ、この男は。
「それで、この荷物はどうすればいいんだ?」
ヤジマは質問をする。
「ええと、それが…」
「歯切れ悪いな、戦場に武器の密輸でもするのか?」
「ええとですね、密輸というところはあっているんです」
「なんだ、怪しげな薬か?」
「いえ、その、お菓子、です」
「はぁ?」
ヤジマは理解できないというように声を上げる。
キタザワがうっかり開封した荷物は、
お菓子の詰め合わせだった。
それに加え、お菓子がどれだけいいものであるかを、
切々と説いている文章などが入っていた。
開封した中の手紙などをある程度読んで、
キタザワが理解したのは、
どうも、お菓子を規制している国があるらしい。
お菓子は悪いものとされているらしい。
お菓子を巡って戦争が起きているらしい。
その国にお菓子を届けて欲しいということらしい。
どんな人にもお菓子が必要で、
お菓子が届けば目を覚ますはずということらしい。
と、らしいらしいをつなぎ合わせてキタザワは説明する。
「ふーん…それで、密輸か」
「どうします?」
「まぁ、開けたんならばしょうがないな」
ヤジマは愛用の大きな銃を取り出す。
「ヤジキタ宅急便屋としての、責任は取らないといけない」
「そう、ですね。それじゃ…」
「荒事あるかもしれないな、ついてこれるか、キタザワ」
「はい!」
ヤジマとキタザワは、お菓子を運びに店を出た。
誰かが荷物を待っているのならば、
それを運ぶのが宅急便屋だ。