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第495話 菓子

斜陽街一番街に、ヤジキタ宅急便屋はある。

ヤジマという気の強い女性と、

キタザワという大型犬のような男の、

二人で営業しているお届け物屋だ。


ある日、宅急便屋に届け物の依頼。

依頼といっても、荷物だけがどこかから届いて、

中の荷物を転送してくれということらしい。

荷物を受け取ったのはキタザワで、

珍しく何の疑いもなく、自分に届いたものだと思ったらしい。

あとでヤジマはこっぴどく怒ったが、

叱られました、とても落ち込んでいますというのを、

目に見える態度で示しているキタザワを見て、

ヤジマは大きくため息をつき、叱るのをやめた。

悪気はないのだ、この男は。


「それで、この荷物はどうすればいいんだ?」

ヤジマは質問をする。

「ええと、それが…」

「歯切れ悪いな、戦場に武器の密輸でもするのか?」

「ええとですね、密輸というところはあっているんです」

「なんだ、怪しげな薬か?」

「いえ、その、お菓子、です」

「はぁ?」

ヤジマは理解できないというように声を上げる。


キタザワがうっかり開封した荷物は、

お菓子の詰め合わせだった。

それに加え、お菓子がどれだけいいものであるかを、

切々と説いている文章などが入っていた。

開封した中の手紙などをある程度読んで、

キタザワが理解したのは、

どうも、お菓子を規制している国があるらしい。

お菓子は悪いものとされているらしい。

お菓子を巡って戦争が起きているらしい。

その国にお菓子を届けて欲しいということらしい。

どんな人にもお菓子が必要で、

お菓子が届けば目を覚ますはずということらしい。

と、らしいらしいをつなぎ合わせてキタザワは説明する。


「ふーん…それで、密輸か」

「どうします?」

「まぁ、開けたんならばしょうがないな」

ヤジマは愛用の大きな銃を取り出す。

「ヤジキタ宅急便屋としての、責任は取らないといけない」

「そう、ですね。それじゃ…」

「荒事あるかもしれないな、ついてこれるか、キタザワ」

「はい!」


ヤジマとキタザワは、お菓子を運びに店を出た。

誰かが荷物を待っているのならば、

それを運ぶのが宅急便屋だ。

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