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第496話 図書館

斜陽街に住み着いている、

いわゆる殺し屋の羅刹という人物がいる。

黒いスーツに黒いサングラス、髪は黒く短い。

愛用のボウガンで相手を殺し、

依頼人の生きる気力を糧にしているという存在だ。

羅刹は鬼かもしれない。

それでも、サングラスの下の素顔は、幼い少年を思わせる。

素顔を知るのは、斜陽街の連中くらいで、

洗い屋なんかは弟扱いしている。

羅刹はそんな、少しばかりアンバランスな存在である。


羅刹が、扉屋にやってきたのは偶然だ。

そして、何かの切れ端の挟まっている、

開きかけの扉を見つけたのも偶然だ。

それは、小さなしおりだった。

羅刹でも、なんとなくわかる。

洗い屋が何かの本を読んでいるときに挟むようなやつだなと。

羅刹はその扉に興味を持った。

開きかけの扉に手をかけ、開く。

しおりは扉の中へと舞うように。


羅刹の開いた扉の向こうは、

本がぎっしり入っている本棚の通路。

しおりはひらひらと羅刹を導くように、通路にある。

どうしたものかなと羅刹は思う。

思っても、興味を持ったのは羅刹なんだからしょうがない。

羅刹は扉をくぐり、

その世界へとやってくる。


扉が閉まる。

羅刹は気にせずに本棚の通路を歩く。

「ここは…なんだろう」

整然と並ぶ本。

静かな空間。

足音だけが響く。


不意に、気配。

羅刹はいつもの調子でボウガンを構え、振り返る。

「反応いいね、君」

声は女性。

おびえるわけでもなく、当たり前のように。

女性の肌は浅黒く、細身ながらも筋肉質で、

戦士のそれを思わせる。

「ここは図書館。情報を滲ませる、通称・雨と戦うところだよ」

「雨と?」

「あなたは戦える?」

女性の問いに、羅刹は少し考え、

「本をあとでもらえるのならば。一冊でいい」

女性は微笑む。

「名前は?」

「羅刹」

「私は司書のアルファ。よろしく」


司書のアルファが手を差し出す。

やはりそれは戦士の手だった。

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