斜陽街に住み着いている、
いわゆる殺し屋の羅刹という人物がいる。
黒いスーツに黒いサングラス、髪は黒く短い。
愛用のボウガンで相手を殺し、
依頼人の生きる気力を糧にしているという存在だ。
羅刹は鬼かもしれない。
それでも、サングラスの下の素顔は、幼い少年を思わせる。
素顔を知るのは、斜陽街の連中くらいで、
洗い屋なんかは弟扱いしている。
羅刹はそんな、少しばかりアンバランスな存在である。
羅刹が、扉屋にやってきたのは偶然だ。
そして、何かの切れ端の挟まっている、
開きかけの扉を見つけたのも偶然だ。
それは、小さなしおりだった。
羅刹でも、なんとなくわかる。
洗い屋が何かの本を読んでいるときに挟むようなやつだなと。
羅刹はその扉に興味を持った。
開きかけの扉に手をかけ、開く。
しおりは扉の中へと舞うように。
羅刹の開いた扉の向こうは、
本がぎっしり入っている本棚の通路。
しおりはひらひらと羅刹を導くように、通路にある。
どうしたものかなと羅刹は思う。
思っても、興味を持ったのは羅刹なんだからしょうがない。
羅刹は扉をくぐり、
その世界へとやってくる。
扉が閉まる。
羅刹は気にせずに本棚の通路を歩く。
「ここは…なんだろう」
整然と並ぶ本。
静かな空間。
足音だけが響く。
不意に、気配。
羅刹はいつもの調子でボウガンを構え、振り返る。
「反応いいね、君」
声は女性。
おびえるわけでもなく、当たり前のように。
女性の肌は浅黒く、細身ながらも筋肉質で、
戦士のそれを思わせる。
「ここは図書館。情報を滲ませる、通称・雨と戦うところだよ」
「雨と?」
「あなたは戦える?」
女性の問いに、羅刹は少し考え、
「本をあとでもらえるのならば。一冊でいい」
女性は微笑む。
「名前は?」
「羅刹」
「私は司書のアルファ。よろしく」
司書のアルファが手を差し出す。
やはりそれは戦士の手だった。