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第497話 貼紙

斜陽街番外地の探偵事務所。

探偵と助手は、のんびりとお茶をしていた。

この探偵は勘が鋭く、

人によっては、世界一の探偵と評価されることもある。

世界がどれほどのものかわからないけれど、

探偵は、仕事を待ち、依頼があればこなし、

ほどほどに斜陽街でやっていけている。

世界一の探偵に依頼が山ほどは来ない理由は、

ひとえに、場所が悪いのだろう。


助手は、何かの本を読んでいた。

探偵は椅子に腰掛け、ぼんやりとしている。

「それ、いつの間に買ってきたんだ?」

探偵が聞く。

「はい?」

「その本」

「ああ、はい、扉の向こうに図書館があったので」

「あー、借りてきたのか」

「はい。面白いです」

「ふぅん…」

探偵はぼんやりに戻ろうとして、

何か思うところがあったのか、

「どんな本なのか、ちょっと聞かせてくれないか?」

助手は快諾して、ある程度かいつまんで説明する。


貼紙街という町がある。

そこは依頼を壁に貼って、待つ人たちの町。

そこにはどんな依頼も存在する。

あなたを求めている誰かが、貼紙街のどこかで待っているかもしれない。


助手はそこまで説明して、

「全部読んだわけじゃないんで、ここまでです」

と、話を区切る。

探偵はうなずき、

「勘がちょっと呼んでるな」

と、椅子から立ち上がる。

多分探偵の何かのスイッチが入った。

助手もわかっているらしく、

「いってらっしゃい」

と、軽く答える。


多分探偵は、貼紙街に行く。

そこで何を見るかまではわからないけれど、

探偵の勘は、未来を見るものではない。

探偵はいつものベージュのコートを羽織って、

風のように探偵事務所をあとにする。

探偵の勘が、扉屋を示している。

どこかの扉から、貼紙街にいけるのだろう。

「さて、面白いことがあればいいんだがな」

繰り返すが、未来はわからない。

未来がわからないから、

探偵は率先して面白いことを求める。


斜陽街の連中は、たいていそんな性格かもしれない。

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