斜陽街番外地の探偵事務所。
探偵と助手は、のんびりとお茶をしていた。
この探偵は勘が鋭く、
人によっては、世界一の探偵と評価されることもある。
世界がどれほどのものかわからないけれど、
探偵は、仕事を待ち、依頼があればこなし、
ほどほどに斜陽街でやっていけている。
世界一の探偵に依頼が山ほどは来ない理由は、
ひとえに、場所が悪いのだろう。
助手は、何かの本を読んでいた。
探偵は椅子に腰掛け、ぼんやりとしている。
「それ、いつの間に買ってきたんだ?」
探偵が聞く。
「はい?」
「その本」
「ああ、はい、扉の向こうに図書館があったので」
「あー、借りてきたのか」
「はい。面白いです」
「ふぅん…」
探偵はぼんやりに戻ろうとして、
何か思うところがあったのか、
「どんな本なのか、ちょっと聞かせてくれないか?」
助手は快諾して、ある程度かいつまんで説明する。
貼紙街という町がある。
そこは依頼を壁に貼って、待つ人たちの町。
そこにはどんな依頼も存在する。
あなたを求めている誰かが、貼紙街のどこかで待っているかもしれない。
助手はそこまで説明して、
「全部読んだわけじゃないんで、ここまでです」
と、話を区切る。
探偵はうなずき、
「勘がちょっと呼んでるな」
と、椅子から立ち上がる。
多分探偵の何かのスイッチが入った。
助手もわかっているらしく、
「いってらっしゃい」
と、軽く答える。
多分探偵は、貼紙街に行く。
そこで何を見るかまではわからないけれど、
探偵の勘は、未来を見るものではない。
探偵はいつものベージュのコートを羽織って、
風のように探偵事務所をあとにする。
探偵の勘が、扉屋を示している。
どこかの扉から、貼紙街にいけるのだろう。
「さて、面白いことがあればいいんだがな」
繰り返すが、未来はわからない。
未来がわからないから、
探偵は率先して面白いことを求める。
斜陽街の連中は、たいていそんな性格かもしれない。