これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキという少女が、列車に乗っていた。
田舎に行く列車で、客は少ない。
時期としては夏休みで、列車の外は照りつける太陽。
空焚きしたような地面。
アキが外を見ると、それなりにのどかな田園風景。
のどかで、そして、限りなく夏だ。
列車の中は、扇風機が申し訳程度と、
一応の空調がかかっている。
外に出たら暑いだろうなとアキは思い、
また、そうでなければ夏休みって感じがしないとも思う。
アキは夏休みを田舎に過ごす予定で、
この列車に乗っている。
都会でも夏休みの時間はすごせるが、
ただ、アキはちょっと冒険みたいなものをしたかったし、
なにより、夏を全身で感じてみたかった。
この夏は一度きり。
求めようが、拒絶しようが、
どんなことしてもこの夏は一度しか来ない。
そして、永遠の夏休みなどありえない。
アキは、列車の向かう、田舎に思いをはせる。
そこにはどんなものがあるだろうか。
何もないなら、そこはどういうところだろうか。
未知はアキの求めるところで、
夏の日差しのようにアキははじけてみたかった。
都会が嫌いなわけではない。
都会には図書館もあるし、よく知ったお菓子だってある。
でも、都会の夏は、なんだろうとアキは思う。
「狭い夏?」
アキはつぶやく。
空も部屋も狭い夏に、閉じ込められたくない。
アキとしては、そんなとりあえずの結論を出す。
列車はがたごと。
決して乗り心地がいいわけでない。
アキにとっては田舎の全てがまだ未知で、
この列車で行くところの、次の駅を降りるという情報と、
親戚が待っているはずという情報。
それ以外は何もわからない。
とても小さなときに行ったきりだという。
不思議と不安はなくて、
どうにかなるという、受身よりも、
どうにかしてやるという、ちょっと攻めの姿勢。
何かが待っている予感だけはある。
早く会いたい、アキは強くそう思う。