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第499話 首切

斜陽街三番街、がらくた横丁の一角。

鎖師の店はある。

鎖師は鎖を編むのが仕事。

無造作に素材を手にして、

力も入れないのに、きれいに鎖を編んでいく。

不思議な能力に見えないこともないが、

鎖を編むのは、これが普通なのかもしれない。


鎖師の外見は、表情の少し薄い女性。

特別な格好をしているわけではない。

ただ、鎖師はいつも、輝く鎖を持っていて、

輝く鎖は、鎖師の意のままに動く。

どのくらい伸びるのかも、少しばかり不明である。

輝く鎖が服の中にあるのだろうが、

服が膨れた様子はないし、いろいろと謎めいている女性である。


鎖師は、ちょっとした鎖を編んでいた。

よその町からの依頼だ。

このところ斜陽街に風がよく吹くし、

いろいろなものの出入りが、それなりにあるのかもしれない。

それでも、誰が来ようが関係ないという顔で、鎖師は鎖を編む。

届け先はゴブリン通りという町らしい。

斜陽街の誰かが行ったことがあるのか、

ちょっとだけ、記憶に残っている。

話を又聞きで聞いたのかもしれない。


曰く。

ゴブリンどおりは暗い町だ。

ゴブリン通りには悪戯をするゴブリンがいる。

ゴブリンはアイスクリームが苦手だ。


鎖師はこの程度のことを記憶している。

誰が行ってきたのだかわからない。

「まぁいいわ」

鎖師はこだわらない性格だ。

ただ、今回ゴブリン通りについて、妙な噂を聞いた。


「クビキリが出る、って本当かしら」

鎖師はつぶやく。

こだわらない性格でも、気になる。

首を切って歩くクビキリが出るらしい。

ゴブリンもやられた奴がいると言う噂だ。

噂が噂を呼んでいるのかもしれないけれど、

巻き込まれるのはできれば遠慮したい。


鎖師の隠した側面が出るのは遠慮したい。

どんなときに側面のスイッチが入るかわからない。

だから、この鎖を届けたら、

ゴブリン通りからさっさと帰ろうと鎖師は思う。

考えている間に鎖はきれいに完成したけれど、

まず、届けに行くのがちょっと気が重い。


鎖師は念のため輝く鎖を持って、

ゴブリン通りへの扉を目指す。

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