斜陽街三番街、がらくた横丁の一角。
鎖師の店はある。
鎖師は鎖を編むのが仕事。
無造作に素材を手にして、
力も入れないのに、きれいに鎖を編んでいく。
不思議な能力に見えないこともないが、
鎖を編むのは、これが普通なのかもしれない。
鎖師の外見は、表情の少し薄い女性。
特別な格好をしているわけではない。
ただ、鎖師はいつも、輝く鎖を持っていて、
輝く鎖は、鎖師の意のままに動く。
どのくらい伸びるのかも、少しばかり不明である。
輝く鎖が服の中にあるのだろうが、
服が膨れた様子はないし、いろいろと謎めいている女性である。
鎖師は、ちょっとした鎖を編んでいた。
よその町からの依頼だ。
このところ斜陽街に風がよく吹くし、
いろいろなものの出入りが、それなりにあるのかもしれない。
それでも、誰が来ようが関係ないという顔で、鎖師は鎖を編む。
届け先はゴブリン通りという町らしい。
斜陽街の誰かが行ったことがあるのか、
ちょっとだけ、記憶に残っている。
話を又聞きで聞いたのかもしれない。
曰く。
ゴブリンどおりは暗い町だ。
ゴブリン通りには悪戯をするゴブリンがいる。
ゴブリンはアイスクリームが苦手だ。
鎖師はこの程度のことを記憶している。
誰が行ってきたのだかわからない。
「まぁいいわ」
鎖師はこだわらない性格だ。
ただ、今回ゴブリン通りについて、妙な噂を聞いた。
「クビキリが出る、って本当かしら」
鎖師はつぶやく。
こだわらない性格でも、気になる。
首を切って歩くクビキリが出るらしい。
ゴブリンもやられた奴がいると言う噂だ。
噂が噂を呼んでいるのかもしれないけれど、
巻き込まれるのはできれば遠慮したい。
鎖師の隠した側面が出るのは遠慮したい。
どんなときに側面のスイッチが入るかわからない。
だから、この鎖を届けたら、
ゴブリン通りからさっさと帰ろうと鎖師は思う。
考えている間に鎖はきれいに完成したけれど、
まず、届けに行くのがちょっと気が重い。
鎖師は念のため輝く鎖を持って、
ゴブリン通りへの扉を目指す。