螺子ドロボウは、螺子師がぎりぎり捕まえられないところを逃げる。
距離、高さ、スピードに、長く走っていれば疲労。
螺子ドロボウはそういう余計な計算は大好きだ。
螺子師もそれはわかっているが、
とにかく、危険なものかもしれない箱を、
取り返さないといけないと思っている。
螺子ドロボウから、または危険なものから、逃げるのではなく、
正々堂々、捕まえて、箱を取り返さないといけない。
螺子師がこうやって必死になって今回追うのには、
ちょっとしたわけがある。
簡単な話であるのだが、
螺子ドロボウは、多分本人は意識していないが、
あまりよくないことに関して、予想が良く当たる。
今回、螺子ドロボウが、パンドラの箱だったら面白いとか言い出し、
螺子師はまずいと思った。
奴がそういうことを言い出したら、
多分、それはパンドラの箱で、危険なものだ。
だから、螺子師は必死になって追う。
一方螺子ドロボウは、
斜陽街のあちこち回って、結局三番街のがらくた横丁に戻ってきた。
気配あたりから螺子師も、そのうち来るだろうと螺子ドロボウは踏んでいる。
今日も今日とて追いかけっこは楽しいね。
螺子ドロボウは上機嫌だ。
「まてぇっ!」
螺子師がようやく追いついた。
さて、ここでおさらばしようかと思ったが、
螺子ドロボウは、何かを思いついてしまった。
「うん、開けよう」
「は?」
螺子ドロボウは、力もあまり入れずに、ひょいと箱を開ける。
パンドラの箱とか言い出した、あまりよくない予感のするそれを。
螺子師はあわてて止めようとするが時すでに遅し。
箱は開封される。
そして、螺子ドロボウと螺子師は、
次の瞬間、箱に吸い込まれるようにして消える。
びっくりする暇もなく、彼らはどこかに消えた。
箱はまた閉じて、螺子師の店の前に転がる。
なぜとか、どうしてとか、どこに消えたのかとか、
箱は沈黙して答えない。