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第504話 故郷

斜陽街番外地。鳥篭屋。

鳥篭屋のおばさんは、いつものように鳥篭を作っている。

鳥篭屋の鳥篭は、

使うと戻りたいところに戻れる。

どうやって使うのかなど、明確なことはわからない。

ただ、使ったと思えば使ったということで、

使えば、戻りたい場所に戻れる。

おばさんは鳥篭を求めてやってくる人にそう説明する。


戻りたい場所。

それはどこだろうか。

誰かの問いに、おばさんはせんべいをバリンとして、

もぐもぐと食べてから、お茶まですすって。

ため息をちょっと荒くついて、答えた。

「心が求める場所、それが答えさ」

多分お客はわからないという反応をした。

おばさんはお茶をもう一口すすって、

「故郷かもしれない。故郷に戻りたくなければ別のところさ」

お客は、わからないなりに鳥篭を手に取った。

「お行き。あんたの求める故郷ってのも、あってもいいのさ」

それからのことはわからない。

ただ、おばさんがいつものようにいた、それだけだ。


鳥篭屋のおばさんは、

恰幅のいいパワフルなおばさんだ。

乱暴なわけではない。

女性がきちんと熟して持った強さと、

隠れがちだけど優しさも兼ね備えている。

優しいから、誰もがどこかへ帰れる、

鳥篭みたいなものが作れるのかもしれない。


鳥篭屋のおばさんは、

誰も、どこかへ帰れると信じている。

遠い遠い、物理的に帰れない場所にだって、

鳥篭があれば、距離を越えて帰れる。

そういう場所に帰れる手助けのため。

それから、誰もどこか帰る場所がある、それを求めている。

鳥篭屋はそれを感じる。

だから鳥篭を作る。

名前もわからない誰か。

性別すら忘れてしまった誰か。

存在さえ曖昧な誰か。

帰りたい誰かのため、鳥篭はいつも並んでいなければならない。


帰ろう、心の故郷に。

帰りたい場所、誰にもそういう場所がある。

そういう場所が心にあるから、今をがんばれるのだ。

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