これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
お菓子の箱をキタザワが持って、
ヤジマとキタザワは扉の向こうへとやってきた。
扉を出てすぐの場所は、サトウキビ畑。
道が一本、舗装もされていない土の道。
お菓子を巡った戦争なんて、遠くの話といいそうな、のどかな場所。
ヤジマは扉を確認し、道を確認し、歩き出す。
キタザワが続く。お菓子の箱は重くないようだ。
それなりに背の高いサトウキビの畑を進むと、
少し開けた場所に出た。
そこは無人駅。ぽっかりと。
普通に券売機があり、誰が料金回収するのかもわからないけれど、
ヤジマは依頼された場所の最寄の切符を買う。
「ええと、時刻表は…」
ヤジマが駅の中を探そうとすると、
「来ました、あっち行くのでいいんですよね」
キタザワが言ったとおり、列車が来ている。
電車というにも、電気はどこから来ているのやら。
とにかく列車。
ヤジマとキタザワは、あまり疑問も持たずに乗り込む。
腕っ節の裏づけがあるから、
万が一のときは、やっつけて出てくればいい。
列車は、一両。
ヤジマとキタザワのほかに乗っている客はいない。
キタザワは座って、隣に箱を置く。
ヤジマも座り、外を見ている。
サトウキビがこんなにある世界で、
戦争になるほど菓子を制限しているというのはなんだろうか。
砂糖を独占している連中でもいるのだろうか。
塩を国が売っているというのはありそうだがとヤジマは少し考える。
外は夏のような日差し。
夏休みの旅行だったら、こんなにのどかなところもいいかもしれない。
でも、ヤジマとキタザワは今から戦場にいって、
密輸という犯罪を犯す。
まぁ、犯罪に手を染めるのはいまさらだけど、
いまさらだけど、キタザワを巻き込みたくないなぁと思い、
そんなことを言ったら、キタザワがしょげた大型犬のようになるのもわかっている。
一緒にいくしかない。
ヤジマは外を見たまま苦笑いをする。