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第506話 内乱

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


司書のアルファは、羅刹を連れて、

図書館の中を歩き出す。

「雨と戦うのが司書の役目なんだけどね」

「滲ませるんでしたっけ。雨とは?」

「雨は、もともと司書の女。ただ、本に魅入られすぎているの」

アルファは説明する。

通称・雨とは、

この図書館で司書として育ち、様々の教育を受けた。

そして、どこか遠くの町に行った際、

彼女は雨が運んでくる本に魅入られてしまった。

雨が運んでくる本はなんと魅力的なことか。

情報を軽く飛び越えている存在がある。

滲む情報など滲んで消えてしまえ。

あってもなくても、滲むなら要らない物だ。


「…で、通称・雨という彼女になった」

「なるほど」

「厄介なことに、彼女に同調している司書もいて」

「滲むべし、と?」

「うん、だから、この戦いは内乱でもあるわけ」

「それで、どこに行くのでしょう」

「とりあえずオフィス。みんながいるわ」

アルファはすたすたと歩く。

図書館の中は、靴音があまり反響しないようだ。

本が無限にあるように思われる中、静かだ。


アルファは、本の森が開けたところにある、扉をノック。

「誰だ?」

「アルファ。使えそうな奴を連れてきた」

扉が開き、銀髪の優男が顔を出す。

「よぉ。まぁ入れ。菓子くらいは出す」

優男に悪い気配はないと羅刹は感じる。

「あなたはアルファさんの仲間?」

「ああ、ベータって言う。よろしく」

「羅刹です。よろしく」

「雨のことは聞いたか?」

「ある程度は」

「そうか。まぁ、茶でも飲むか。空腹で戦える奴を俺はあまり見たことがない」

ベータがオフィスの中に戻り、アルファと羅刹が続く。


「外は雨だ。奴らも動き出すだろうよ」

ベータがつぶやく。

「しかし、本当に雨が運んでくる本があるのですか?」

羅刹は訊ねる。

「一冊だけ、この図書館にもあるという」

アルファが答える。

「ただ、蔵書録にも載っていないので、この森から探すのは、無理と思っていい」


静かなオフィスの中。

茶の香りだけほのかに。

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