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第507話 依頼

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


探偵は、扉をくぐって、貼紙街にやってきた。

そこは通りに誰もいない町。

明かりも頼りなく街灯が揺れている程度で、

店が営業しているとか、そういった類の明かりはない。

街灯は、貼紙を読ませるためのものらしく、

その近くにいくつもいくつも貼紙が貼られている。

壁という壁に貼紙が貼られていて、

その数無数。

暗い町は、以前何かの折で行った、ゴブリンの町を思い出させる。

あれはアイスクリームを買いに行ったときだったか。


誰もいない。

風が吹いて、はがれかけの貼紙を揺らす。

これだけあればどんな依頼もあるだろう。

探偵は町を歩く。

迷路の様でもあり、また、城塞都市も思わせる。

どこか遠くの異国を思う。

迷って扉を見失ったらどうなるんだろうなと探偵は思う。

少し考え、ここの住人になるのかもなと思う。

迷いました、私を扉の場所まで連れて行ってくださいという、

依頼を貼紙に書いて、ここの町のどこかにいるのだろうと思う。

貼紙街の貼紙が消えないのは、

そういうわけなのかなと探偵は思う。


貼紙は大通りから路地にいたるまで、

いたるところ、壁という壁を埋め尽くさん勢いで。

貼紙でこの町は作られましたといっても、

信じる人がいるかもしれない。

探偵は、そっと壁に触れてみる。

貼紙、その向こうにざらついた石造りの感触。

建物は、貼紙が貼られる以前からあったのだろう。

どうしてこうなったんだろう。

考えてもしょうがないことだし、

探偵は、歴史にはあまり興味はない。

ただ、依頼が無数にあるのが、面白いなという程度。


さて、どの依頼にしたものかな。

普通なら迷うであろう貼紙街の路地、

その町にはじめて来たはずの探偵は、

勘の赴くまま、迷わず飄々と歩いていく。


誰もいない。

風が吹いて、はがれかけの貼紙を揺らす。

探偵以外、誰もいない。

石畳の町を、探偵の靴音が響く。

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