目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第509話 魔除

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


鎖師は扉を開いて、ゴブリン通りにやってきた。

比較的暗い通りだなと鎖師は思う。

街灯がぼんやりと暖かい明かりを投げかけているが、

一部しか照らせずに、照らせない闇は静かに暗いばかり。

鬼が住み着きやすい闇なのかなと鎖師は思う。

鎖師は鎖を持って、届け先へと向かう。


暗い通り。

遠くのほうでオモチャのピアノのふざけたような音が聞こえる。

そのあと、がしゃんと何かが壊れたような音が、やっぱり遠くで。

なんだろうかと鎖師は思う。

「ゴブリンだよ」

そっと話すその声は、鎖師のいる、小さな明かりの近くから。

車を店に改造した屋台だ。

ひげをちょぼちょぼ生やしたおじさんがいる。

「ゴブリン?」

「そう、ここの通りに住み着いている悪戯が好きな鬼だよ」

「あなたは?」

「アイスクリーム屋だよ。ゴブリンはアイスが苦手なんだ」

「アイスが苦手?」

「そう、ゴブリンは熱いものだ。加えて薬草も苦手さ」

「そういうものなのね」

鎖師は勝手に納得する。

「ひとつどうだい。薬草アイスでも」

「いえ、鎖を届けなくちゃいけないの。いずれ、また」

「そうかい、それは残念だ」

アイスクリーム屋は、無理は言わない。


「そういえば」

鎖師は話し出す。

「クビキリが出るという噂を聞きましたけど」

「ああ、クビキリか。あれは鬼じゃない。魔だね」

「違うのですか?」

「ああ、クビキリは魔だ。魔には魔除が要る」

「まよけ、ですか」

「持っていないゴブリンがたまにクビキリにあっている」

「アイスクリームは?」

「どちらにも有効だよ」

鎖師は納得する。

多分、アイスクリームはクビキリにも有効だ。

薬草のそれが効き目があるに違いない。


遠くでオモチャのピアノがむちゃくちゃに鳴っている。

それが不意にがしゃんと途切れた。

「ゴブリンがやられたかもしれないな」

アイスクリーム屋がつぶやく。


鎖師は一礼して、ゴブリン通りを歩き出す。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?