斜陽街二番街。占い屋。
この店には常時何人かの占い師がいて、
客が気に入った占い方で占いをしてくれる。
店内には、少しだけ霧のような演出と、
東洋風の香が立ち込めている。
占い師は、小部屋のようなものにそれぞれいて、
どんな占いをしたのかとか、
どんな結果やアドバイスをしたかは、
聞かないし話さない。
占いにはそういう秘密もある。
この占い屋を統率しているのが、
マダムクイーンビーだ。
通称占い屋のマダム。
占いの腕は超一流の針占い。
よく当たる。
ただ、変わった卦の持ち主をコレクションするという噂もあり、
わかっている人は、なかなかマダムに占いを頼むことはない。
三番街のがらくた横丁に店を出している、
薬師が店にやってきた。
「こーんにーちはー。マダムに頼まれたお薬もって来ましたー」
秘密を霧で包んだような占い屋で、薬師は声を張り上げる。
常駐している占い師達が、何事と顔を出す。
「あら、薬師さん、早かったのね」
「がんばったよー」
薬師はにんまりと笑う。
「箱にいくつか詰め込んできたから、どこに運ぶのがいいかな」
「奥の部屋の前に置いて」
「了解っと」
薬師は占い屋の前に置いてある、いくつかの箱を運びにかかる。
「あの…」
勇気ある占い師が口を開く。
「なぁに?」
「何のお薬でしょうか?」
「ふふっ」
マダムは笑い、
「ひみつ」
と、答えてまた笑う。
占い師はそれだけで引き下がらない。
今度は薬師に声をかける。
「頼まれたそれは、なんなのですか?」
「うんと、えっと説明すると難しいから」
薬師は考える。
そして、ひらめいたらしい。
薬師はいい言葉を思いついたようだ。
「うん、秘密なんだ」
「秘密、ですか」
「うん、ものすごく難しいのは秘密のほうがわかりやすいんだよ」
占い師は首をかしげる。
「えっとね、運命とか欲望も簡単なほうがわかりやすいって」
占い師はそれを聞いてなんとなく納得した。
全てを話すより、
わかりやすすぎる秘密のほうがいいのかもしれない。
さて、薬師の薬が何なのか。
わからなくてもきっといいのだ。