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第512話 秘密

斜陽街二番街。占い屋。

この店には常時何人かの占い師がいて、

客が気に入った占い方で占いをしてくれる。

店内には、少しだけ霧のような演出と、

東洋風の香が立ち込めている。

占い師は、小部屋のようなものにそれぞれいて、

どんな占いをしたのかとか、

どんな結果やアドバイスをしたかは、

聞かないし話さない。

占いにはそういう秘密もある。


この占い屋を統率しているのが、

マダムクイーンビーだ。

通称占い屋のマダム。

占いの腕は超一流の針占い。

よく当たる。

ただ、変わった卦の持ち主をコレクションするという噂もあり、

わかっている人は、なかなかマダムに占いを頼むことはない。


三番街のがらくた横丁に店を出している、

薬師が店にやってきた。

「こーんにーちはー。マダムに頼まれたお薬もって来ましたー」

秘密を霧で包んだような占い屋で、薬師は声を張り上げる。

常駐している占い師達が、何事と顔を出す。

「あら、薬師さん、早かったのね」

「がんばったよー」

薬師はにんまりと笑う。

「箱にいくつか詰め込んできたから、どこに運ぶのがいいかな」

「奥の部屋の前に置いて」

「了解っと」

薬師は占い屋の前に置いてある、いくつかの箱を運びにかかる。

「あの…」

勇気ある占い師が口を開く。

「なぁに?」

「何のお薬でしょうか?」

「ふふっ」

マダムは笑い、

「ひみつ」

と、答えてまた笑う。


占い師はそれだけで引き下がらない。

今度は薬師に声をかける。

「頼まれたそれは、なんなのですか?」

「うんと、えっと説明すると難しいから」

薬師は考える。

そして、ひらめいたらしい。

薬師はいい言葉を思いついたようだ。

「うん、秘密なんだ」

「秘密、ですか」

「うん、ものすごく難しいのは秘密のほうがわかりやすいんだよ」

占い師は首をかしげる。

「えっとね、運命とか欲望も簡単なほうがわかりやすいって」

占い師はそれを聞いてなんとなく納得した。


全てを話すより、

わかりやすすぎる秘密のほうがいいのかもしれない。

さて、薬師の薬が何なのか。

わからなくてもきっといいのだ。

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