目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第513話 落下

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


螺子師は感覚をつなぎなおす。

一度、すべてがなんだかよくわからなくなった。

虚をつかれたというか、ゼロになったというか、

とにかく、予期せぬ出来事。

そして、今、螺子師は感覚をつなぎなおして、

とにかく現在の状態を把握しようとする。

螺子が体の感覚の調節をいつもしているから、

こういうときに気分的なものだけど、再起動は早い。

螺子師は目を開く。


青。


風がびょうびょうと吹いている。

引力は多分下。下という感覚があるから引力というのか。

まぁ、今考えるべきことではない。

ここは空か。

地面はぜんぜん見えない。

まず、普通の空でないと思っていいだろうと螺子師は判断する。

ここは、箱に吸い込まれた先だと思っていい。

斜陽街ではそういうこともある。

さて、このまま落ちていったとして、どうしたものか。

まずは帰らないといけないし、

「やぁ」

螺子師の隣に、さかさまになって落下しているふざけた奴。

「…おまえ…」

「箱の中がこんな風になっているなんてびっくりだね」

「元はといえば!」

「まぁまぁ、こんな経験そうできないから、ね」

「なんでもいい、で、どうする」

「あれ、冷静だね」

螺子師は頭をカリカリかいて、

「争っても、この空の中では無意味だ」

「ふーん、なるほど、それもそうだね」

螺子ドロボウは、くるっと回って、

さかさまに落ちるのを、まともな格好に直す。


「思うに、空はひとつでとても広くてつながっているよ」

「何が言いたい?」

「果てのない空は、果てがつながっているから果てがない」

「落下にも果てが無いと?」

螺子ドロボウはうなずく。

「もうひとつ。果て無き夢の果ては」

「謎かけか?」

「そうかも。どう思う?」

「夢叶うか朝の目覚め」

螺子師は答える。

螺子ドロボウはにんまり笑った。


果てを見たければ朝を待て。

螺子師はそんなことを思う。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?