これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
螺子師は感覚をつなぎなおす。
一度、すべてがなんだかよくわからなくなった。
虚をつかれたというか、ゼロになったというか、
とにかく、予期せぬ出来事。
そして、今、螺子師は感覚をつなぎなおして、
とにかく現在の状態を把握しようとする。
螺子が体の感覚の調節をいつもしているから、
こういうときに気分的なものだけど、再起動は早い。
螺子師は目を開く。
青。
風がびょうびょうと吹いている。
引力は多分下。下という感覚があるから引力というのか。
まぁ、今考えるべきことではない。
ここは空か。
地面はぜんぜん見えない。
まず、普通の空でないと思っていいだろうと螺子師は判断する。
ここは、箱に吸い込まれた先だと思っていい。
斜陽街ではそういうこともある。
さて、このまま落ちていったとして、どうしたものか。
まずは帰らないといけないし、
「やぁ」
螺子師の隣に、さかさまになって落下しているふざけた奴。
「…おまえ…」
「箱の中がこんな風になっているなんてびっくりだね」
「元はといえば!」
「まぁまぁ、こんな経験そうできないから、ね」
「なんでもいい、で、どうする」
「あれ、冷静だね」
螺子師は頭をカリカリかいて、
「争っても、この空の中では無意味だ」
「ふーん、なるほど、それもそうだね」
螺子ドロボウは、くるっと回って、
さかさまに落ちるのを、まともな格好に直す。
「思うに、空はひとつでとても広くてつながっているよ」
「何が言いたい?」
「果てのない空は、果てがつながっているから果てがない」
「落下にも果てが無いと?」
螺子ドロボウはうなずく。
「もうひとつ。果て無き夢の果ては」
「謎かけか?」
「そうかも。どう思う?」
「夢叶うか朝の目覚め」
螺子師は答える。
螺子ドロボウはにんまり笑った。
果てを見たければ朝を待て。
螺子師はそんなことを思う。