斜陽街一番街。電脳中心。
ここには電脳娘々という女性が、
電脳、コンピューターに関する仕事をしている。
彼女はいつも、どこかの国の人民服っぽい格好をしている。
それと断言できるわけではないので、レプリカのものかもしれない。
仕事は、検索だったり、ネットワークのバグ取りだったり、
仮想空間の正義の味方のようなものだったり、
プログラムだっていける。
ただ、細身で生身の彼女は、
たまに食事を抜いたり、無理な姿勢でいたりすることがあるので、
薬師なんかにお世話になることもある。
腰痛薬が手放せないと愚痴ったりもするそうだ。
斜陽街一番街に店を構えている酒屋は、
そんな電脳娘々の様子を見に来ていた。
酒屋は、長い髪を後ろでまとめていて、黒の釣鐘マントに、
インヤンマークのシャツとジーンズという姿。
いまいち何を表現しているのか、わかりにくい男だ。
「あかんなぁ」
酒屋は、あきれたようにまず一言。
「これでも調子よくなったんだよ」
「あかんよ。食うもん食っとるか?」
「たまに忘れてるけど…」
電脳娘々の答えに、酒屋は大きくため息。
「なんか食って、ちゃんと休め」
「でもさー」
「ええか?生身はこの町のこの店にあるんや」
「うー…」
「忘れたらあかんで。電脳だけが世界やないんやで」
酒屋は説教じみたことをいって、
そのあと、照れたように頭をかく。
「みんな心配してるんやで」
「うん…うん。ありがとう」
電脳娘々はぺこりと礼をして、
「今日は電脳のお仕事お休みする。本当はちょっとだけきついんだ」
「ほんなら、ちょっと飲むか?」
「うん」
電脳娘々はこっくりうなずく。
酒屋の持ってきた軽い酒を電脳娘々は飲み、
ほうとため息をつく。
軽い酔いが回ってきて、
目を閉じれば演算がまぶたの裏でダンスしている。
「酒屋さん」
「なんや?」
「頭が休んでくれないね。プログラムとかが目を閉じてもぐるぐるしてる」
「どうでもええこと考えたらいいで」
「どうでも?」
「せやなぁ…目を閉じれば青い空。どんどん落ちていくけれど地上は見えない」
電脳娘々は酒を飲み、イメージをして、
久しぶりの休息を得た。