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第514話 微酔

斜陽街一番街。電脳中心。

ここには電脳娘々という女性が、

電脳、コンピューターに関する仕事をしている。

彼女はいつも、どこかの国の人民服っぽい格好をしている。

それと断言できるわけではないので、レプリカのものかもしれない。

仕事は、検索だったり、ネットワークのバグ取りだったり、

仮想空間の正義の味方のようなものだったり、

プログラムだっていける。

ただ、細身で生身の彼女は、

たまに食事を抜いたり、無理な姿勢でいたりすることがあるので、

薬師なんかにお世話になることもある。

腰痛薬が手放せないと愚痴ったりもするそうだ。


斜陽街一番街に店を構えている酒屋は、

そんな電脳娘々の様子を見に来ていた。

酒屋は、長い髪を後ろでまとめていて、黒の釣鐘マントに、

インヤンマークのシャツとジーンズという姿。

いまいち何を表現しているのか、わかりにくい男だ。

「あかんなぁ」

酒屋は、あきれたようにまず一言。

「これでも調子よくなったんだよ」

「あかんよ。食うもん食っとるか?」

「たまに忘れてるけど…」

電脳娘々の答えに、酒屋は大きくため息。

「なんか食って、ちゃんと休め」

「でもさー」

「ええか?生身はこの町のこの店にあるんや」

「うー…」

「忘れたらあかんで。電脳だけが世界やないんやで」

酒屋は説教じみたことをいって、

そのあと、照れたように頭をかく。

「みんな心配してるんやで」

「うん…うん。ありがとう」

電脳娘々はぺこりと礼をして、

「今日は電脳のお仕事お休みする。本当はちょっとだけきついんだ」

「ほんなら、ちょっと飲むか?」

「うん」

電脳娘々はこっくりうなずく。


酒屋の持ってきた軽い酒を電脳娘々は飲み、

ほうとため息をつく。

軽い酔いが回ってきて、

目を閉じれば演算がまぶたの裏でダンスしている。

「酒屋さん」

「なんや?」

「頭が休んでくれないね。プログラムとかが目を閉じてもぐるぐるしてる」

「どうでもええこと考えたらいいで」

「どうでも?」

「せやなぁ…目を閉じれば青い空。どんどん落ちていくけれど地上は見えない」


電脳娘々は酒を飲み、イメージをして、

久しぶりの休息を得た。

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