目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第515話 敵

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


ヤジマは、列車のがたごとに揺られ、

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

相変わらず客は他にいないし、隣でキタザワも寝ている。

なんだかなぁと思いつつ、外を見る。

サトウキビ畑は影も形もない。

あるのは、都市の裏側を思わせる、建物の後姿ばかり。

小さな一両の列車は、終点の都市に着くことをアナウンスして、

大きな近代風というべきの列車の居座る駅の、端っこに到着をする。


ヤジマとキタザワは列車を降りる。

まず目に飛び込んできたのは貼紙。

ポスターというものか。

いわく、「甘いものは敵だ!」

いわく、「砂糖は毒薬だ!」

いわく、「チョコレートは害の塊だ!」

山ほどのお菓子を貶めるポスターの数々。

その上に、スプレーペンキのようなもので、

「われわれにお菓子を!」

と、大きく書かれている。

ヤジマはポスターをしみじみと見てみる。

なにがし(ペンキで読めない)都市健全食品法なんとか。

ポスターが都市の貼っているもので、

ペンキはそれに反対するもの。

わかりやすくすれば、そうなのかもしれない。

他のポスターには、建設中の多目的ドームや、

アイドルが私はお菓子を食べませんといっていたりする。


「ある種すがすがしいな」

「そうですか?」

「主義のぶつかり合いはどこででもだ」

大方、砂糖の独占とかのこじれだろうとヤジマは思う。

ここまで大きく宣伝しているのだ、

都市とやらの方も引くに引けないだろう。

こじれたら、どかんと何か大きなことがないと、さらにこじれると思うが、

いきなりそれを求めるのは、まぁ無理だ。


さて、この箱のお菓子だけで何か変わるものか。

ついでに、このお菓子が見つかったら、

ここでも追っかけまわされる羽目にはなるな。

どうしたものかなとヤジマは思う。


「ヤジマさん、このお菓子どこに届けましょう」

キタザワがいつもの調子で言うものだから、

ヤジマも聞き逃しかけた。

ここの取り締まりやってる連中に、聞かれたら、まずい。

そして、まずい連中が聞いていたらしい。

いろいろ、まずい。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?