これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
ヤジマは、列車のがたごとに揺られ、
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
相変わらず客は他にいないし、隣でキタザワも寝ている。
なんだかなぁと思いつつ、外を見る。
サトウキビ畑は影も形もない。
あるのは、都市の裏側を思わせる、建物の後姿ばかり。
小さな一両の列車は、終点の都市に着くことをアナウンスして、
大きな近代風というべきの列車の居座る駅の、端っこに到着をする。
ヤジマとキタザワは列車を降りる。
まず目に飛び込んできたのは貼紙。
ポスターというものか。
いわく、「甘いものは敵だ!」
いわく、「砂糖は毒薬だ!」
いわく、「チョコレートは害の塊だ!」
山ほどのお菓子を貶めるポスターの数々。
その上に、スプレーペンキのようなもので、
「われわれにお菓子を!」
と、大きく書かれている。
ヤジマはポスターをしみじみと見てみる。
なにがし(ペンキで読めない)都市健全食品法なんとか。
ポスターが都市の貼っているもので、
ペンキはそれに反対するもの。
わかりやすくすれば、そうなのかもしれない。
他のポスターには、建設中の多目的ドームや、
アイドルが私はお菓子を食べませんといっていたりする。
「ある種すがすがしいな」
「そうですか?」
「主義のぶつかり合いはどこででもだ」
大方、砂糖の独占とかのこじれだろうとヤジマは思う。
ここまで大きく宣伝しているのだ、
都市とやらの方も引くに引けないだろう。
こじれたら、どかんと何か大きなことがないと、さらにこじれると思うが、
いきなりそれを求めるのは、まぁ無理だ。
さて、この箱のお菓子だけで何か変わるものか。
ついでに、このお菓子が見つかったら、
ここでも追っかけまわされる羽目にはなるな。
どうしたものかなとヤジマは思う。
「ヤジマさん、このお菓子どこに届けましょう」
キタザワがいつもの調子で言うものだから、
ヤジマも聞き逃しかけた。
ここの取り締まりやってる連中に、聞かれたら、まずい。
そして、まずい連中が聞いていたらしい。
いろいろ、まずい。