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第518話 遊戯

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


アキはおばさんに聞いて、ナツのことを少し知った。

近所に住む少年で、少し変わっているけれどいい子。

そして、アキと変わらぬ年であるという。

友達になれるかなとアキは思った。

翌日、おばさんにいわれた家にアキはいってみた。

少しばかり古い家に、ナツは退屈そうに縁側にいた。

アキは意を決して、庭に入り、

「こんにちは!」

と、声を張り上げる。

ナツは気がついて、にんまり笑った。

「やぁ」

「私は、アキ。ええと…友達になりに来ました!」

ナツは笑みを深くして、

「そういう直球なの、いいと思うな」

と、手放しでアキを賞賛する。

アキはくすぐったくもあったけれど、何より嬉しかった。

「それじゃ、友達だ。何しようか」

「この辺のこと教えてよ。まだ何もわかんないんだ」

「いいよ。暑いから涼しいポイントから行こう」

ナツは縁側においてあった狐面を頭の後ろにつけて、

「トレードマーク」

と、にっこり笑う。

ナツが少し狐に似ているような気がしたけれど、

そういうものかなぁとアキは思う。


ナツは、湧き水の出ているポイントや、

カブトムシの取れる樹、

少し危険な川のよどみ、

夜になると蛍が出るところなどを次々アキに教えていく。

方向がわかりにくくなっているアキに、

このあたりの西と東の見分け方も加えて、

アキを迷子になりにくくさせてくれる。

アキはきっちりと覚えたけれど、

「ナツがいれば平気だよ」

と、言ってみる。

ナツはちょっとびっくりした顔をして、

「僕がいれば?」

「うん」

「そうだね、一緒にいれば迷わないね」

ナツは何かを隠した気がしたけれど、アキにはよくわからなかった。


「雨雲だ。少ししたら降るね」

ナツが遠くを見て言う。

「雨はやだな、びしょびしょになるし」

「そうかな、僕は好き」

「どうして?」

「だって、いろいろ滲んで隠してくれるよ」

ナツは微笑む。

何を隠したいのか、アキは尋ねることができなかった。

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