これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキはおばさんに聞いて、ナツのことを少し知った。
近所に住む少年で、少し変わっているけれどいい子。
そして、アキと変わらぬ年であるという。
友達になれるかなとアキは思った。
翌日、おばさんにいわれた家にアキはいってみた。
少しばかり古い家に、ナツは退屈そうに縁側にいた。
アキは意を決して、庭に入り、
「こんにちは!」
と、声を張り上げる。
ナツは気がついて、にんまり笑った。
「やぁ」
「私は、アキ。ええと…友達になりに来ました!」
ナツは笑みを深くして、
「そういう直球なの、いいと思うな」
と、手放しでアキを賞賛する。
アキはくすぐったくもあったけれど、何より嬉しかった。
「それじゃ、友達だ。何しようか」
「この辺のこと教えてよ。まだ何もわかんないんだ」
「いいよ。暑いから涼しいポイントから行こう」
ナツは縁側においてあった狐面を頭の後ろにつけて、
「トレードマーク」
と、にっこり笑う。
ナツが少し狐に似ているような気がしたけれど、
そういうものかなぁとアキは思う。
ナツは、湧き水の出ているポイントや、
カブトムシの取れる樹、
少し危険な川のよどみ、
夜になると蛍が出るところなどを次々アキに教えていく。
方向がわかりにくくなっているアキに、
このあたりの西と東の見分け方も加えて、
アキを迷子になりにくくさせてくれる。
アキはきっちりと覚えたけれど、
「ナツがいれば平気だよ」
と、言ってみる。
ナツはちょっとびっくりした顔をして、
「僕がいれば?」
「うん」
「そうだね、一緒にいれば迷わないね」
ナツは何かを隠した気がしたけれど、アキにはよくわからなかった。
「雨雲だ。少ししたら降るね」
ナツが遠くを見て言う。
「雨はやだな、びしょびしょになるし」
「そうかな、僕は好き」
「どうして?」
「だって、いろいろ滲んで隠してくれるよ」
ナツは微笑む。
何を隠したいのか、アキは尋ねることができなかった。