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第522話 定食

斜陽街三番街。がらくた横丁の近くの空き地。

そこにまんぷく食堂はある。

食堂といっても、前述したように空き地だ。

そこに屋台があって、椅子とテーブルが並べられていて、

おじいさんとおばあさんで切り盛りしている、青空食堂だ。

雨が降った場合は、空き地の上にシートを大きく広げて、

即席の屋根にする次第だ。

おじいさんとおばあさんにも、いろいろあったのだろうが、

作る食事は、苦労話なんかを軽々と越えて、

純粋においしさを伝えている。


がらくた横丁から、玩具屋がやってきた。

飯時なのかもしれない。

おばあさんがニコニコと注文をとりにいく。

「野菜炒め定食でいいかな」

「はいはい」

おばあさんは一応メモを取って、

「キャベツ多目の気分?」

と、おばあさんはちょっと笑う。

玩具屋は目をちょっと見開いて、

「かなわないなぁ、うん、キャベツちょっと多く」

「はいはい」

おばあさんは楽しそうに注文をおじいさんに届ける。

「野菜炒め定食、キャベツ多目で」

「おう」

おじいさんが短く答え、野菜炒めを作り出す。


「おばあさん」

玩具屋が声をかける。

「なんでしょう?」

「おばあさんは求めるものが、わかるのかな?」

おばあさんは困ったように笑う。

「全部はわかりませんよ」

「でも、キャベツ多目の気分とかわかったし」

「そうねぇ…与えるものだからかしらね」

「なるほど、与えるものか。求めるものに与えるもの、だからか」

玩具屋はうんうんとうなずく。

おばあさんはニコニコと笑っている。


「できたぞ」

おじいさんが屋台のほうから呼ぶ。

「はいはい」

おばあさんはとことこ歩いて、野菜炒め定食を盆に乗せ、

「はい、おまたせ。玩具屋さんだけの野菜炒め定食です」

「それって定食なのかなぁ?」

玩具屋は笑う。

おばあさんも笑う。

おじいさんは仏頂面で中華鍋を洗っている。

まんぷく食堂のいつもの風景だ。


求めるものに与えられるように。

それが自然であるように。

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