斜陽街三番街。がらくた横丁の近くの空き地。
そこにまんぷく食堂はある。
食堂といっても、前述したように空き地だ。
そこに屋台があって、椅子とテーブルが並べられていて、
おじいさんとおばあさんで切り盛りしている、青空食堂だ。
雨が降った場合は、空き地の上にシートを大きく広げて、
即席の屋根にする次第だ。
おじいさんとおばあさんにも、いろいろあったのだろうが、
作る食事は、苦労話なんかを軽々と越えて、
純粋においしさを伝えている。
がらくた横丁から、玩具屋がやってきた。
飯時なのかもしれない。
おばあさんがニコニコと注文をとりにいく。
「野菜炒め定食でいいかな」
「はいはい」
おばあさんは一応メモを取って、
「キャベツ多目の気分?」
と、おばあさんはちょっと笑う。
玩具屋は目をちょっと見開いて、
「かなわないなぁ、うん、キャベツちょっと多く」
「はいはい」
おばあさんは楽しそうに注文をおじいさんに届ける。
「野菜炒め定食、キャベツ多目で」
「おう」
おじいさんが短く答え、野菜炒めを作り出す。
「おばあさん」
玩具屋が声をかける。
「なんでしょう?」
「おばあさんは求めるものが、わかるのかな?」
おばあさんは困ったように笑う。
「全部はわかりませんよ」
「でも、キャベツ多目の気分とかわかったし」
「そうねぇ…与えるものだからかしらね」
「なるほど、与えるものか。求めるものに与えるもの、だからか」
玩具屋はうんうんとうなずく。
おばあさんはニコニコと笑っている。
「できたぞ」
おじいさんが屋台のほうから呼ぶ。
「はいはい」
おばあさんはとことこ歩いて、野菜炒め定食を盆に乗せ、
「はい、おまたせ。玩具屋さんだけの野菜炒め定食です」
「それって定食なのかなぁ?」
玩具屋は笑う。
おばあさんも笑う。
おじいさんは仏頂面で中華鍋を洗っている。
まんぷく食堂のいつもの風景だ。
求めるものに与えられるように。
それが自然であるように。