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第524話 義手

斜陽街三番街、がらくた横丁。

そこに合成屋の店はある。

合成屋は、合成をしてくれる職人だ。

外見は、のっぺらぼうの仮面をかぶっていて、

黒いローブに両手が義手。髪は短く黒い。

しかし、男か女かもわからない。

合成屋は、賢者の井戸に合成したいものをいれて、

手順を踏んで合成をする。

相性のいいものを持っていけば、

喜んで合成してくれるはずだ。


合成屋の両腕は、

前述したとおり、義手である。

きちきちなる手で、ごく自然に物を扱い、

普通の手と変わらないように、動く。

感覚はあるのかはわからない。

合成屋が不便を感じる様子はなく、

斜陽街の合成屋はこういうものなんだと、

納得させてしまうほどには、自然だ。


たまに。

合成屋が義手の手入れをしていることがある。

そうして初めて義手だったんだ、そういえばと言う感じだ。

斜陽街は妙な町だ。

どんなにおかしなものでも、

こういうものだと思えば、存在している町だ。


今日はお客が来ていないらしい。

合成屋は件の義手で賢者の井戸の水をすくう。

水は義手の隙間からぽたぽたと落ちる。

「すくえますかね」

合成屋はつぶやく。

「求め合うものをひとつにして、それは救いですかね」

合成屋の問いには答えるものがない。

水はぽたぽたと落ちていく。


顔にはのっぺらぼうの仮面。

表情はわからない。

けれど、合成屋は少しさびしそうであり、

合成屋自身が何かを求めているようにも見える。

その義手と手をつないで欲しいのか、

あるいはぬくもりが欲しいのか。

求め合うものをひとつにする合成屋は、

ひとり、なのかも知れない。


変わり者の多い町。斜陽街。

孤立しているわけでなく、この町に溶け込んでいる合成屋。

ひとつにしても、さらに孤独になる、物という存在。

完全に満たされた存在にはなるのか。

それをこの義手で触れてもいいものか。


合成屋は賢者の井戸のそばでたたずむ。

答えは出ない。

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