これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
ヤジマとキタザワは走る。
キタザワの不用意な、「お菓子」という言葉が、
どうも都市の取締りの奴らに引っかかったらしい。
警察だか軍だかなんだかわからないけれど、
とにかくやばい奴ら。
ヤジマは直感で逃げ出し、
キタザワはヤジマに引っ張られるようにしてから走り出す。
「あの、なんで」
「音声認識よりもっと原始的な奴だ」
「え?」
「禁句をしゃべったんだ、お菓子ってな」
キタザワはそこまでいって、ようやく現状を認識したらしい。
そんなわけで、ヤジマとキタザワは走る。
以前もこうやって逃げて走ったことがあったなぁと、
ヤジマは少しだけ思い出す。
まぁ、この箱のお菓子ともども、
捕まったらただじゃおかないんだろう。
「さぁて、どうしたものかな」
ヤジマは少し微笑む。
こういう状況を楽しむ余裕がある。
あのときには考え付かなかったことだ。
「ヤジマさん!前に!」
キタザワが叫ぶ。
行く手をふさぐ、アイスクリーム販売の車。
「君たち!ここに!」
販売車の運転手が叫ぶ。
ヤジマはそれで理解をする。
鈍いキタザワを先に行かせて、
「とりあえずの味方だ!乗れ、キタザワ!」
ヤジマは叫び、追っ手の足元に銃を発砲一発。
ひるんだ隙に、ヤジマも車に乗る。
走り出したアイスクリームの車の中は、
武装した連中とたくさんの武器が乗っていた。
何がなんだかわかっていないキタザワに、
ヤジマはとりあえず、
キタザワがそれでも持っていたお菓子の箱を示す。
「抵抗勢力って奴だ。わかるか?」
キタザワはようやく納得。
「ええと、ヤジキタ宅急便屋です。お菓子を届けに来ました」
武装した連中は笑った。
武装が似合わないほど、快活に。
「俺達は抵抗勢力のアイ・スクリームの一団だ」
「我叫ぶ、で、アイスクリームか」
「まぁそういうことだ。アイスは鬼も魔も払うって話らしいからな」
ヤジマはどこかでそんな話も聞いた気がしたが、
気のせいだと思った。