これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
彼らはオフィスを出る。
そこは、図書館の姿を借りた戦場だ。
アルファが武器に弾をつめるような動作。
ベータは大きな太刀を構える。
羅刹はいつものボウガンを手にする。
オフィスにいたその他の司書も、
おのおののエモノを構える。
感じるのだ。
司書という戦士になった彼らだから、
通称・雨がやってくる気配を感じる。
雨は空からやってくるのか。
雨が満ちれば世界は滲んで海にでもなるのか。
空の上の上には何がある。
雨はどこからやってくる。
雨の始まりは一体何で、
どこから雨は落ちてくる。
「正義はどちらにありますか」
羅刹はつぶやく。
ベータが少し笑った。
「正義の味方は物語の中だけじゃないかな」
「そういうものですか?」
「情報は残しすぎればパンクだ。普通に考えればな」
「…ですね」
「だからこっちが愚かと向こうは言うさ」
ベータは太刀を構える。
「でもな、何を残すべきかを選ぶのは、俺達じゃないと思う」
アルファが弾をこめる手を止める。
「そう、選ぶのは雨でも私たちでもない」
アルファが武器を、長い銃らしいものを構える。
「正義はどこにもない。ただ、守る言葉があるだけ」
アルファの武器が火を噴く。
それが合図となって、争いが始まる。
内乱と言っていたか。
太刀はうなり、武器は火を噴き、
それは戦い。
ただし、正義は多分どちらにもない。
羅刹にも正義はない。
巻き込まれたに過ぎない。
正しいということが欠落した戦い。
守るべきものは本であり言葉。
守った果てに、歴史とやらが言葉を消し去るかもしれない。
それでも、羅刹は思う。
司書が戦士にならないほうがいい。
図書館が平和な場所がいい。
言葉の森は平和であって欲しいのは、
羅刹の幻想なのかもしれない。
今、こうしてここは戦場だ。
正義はどこにある。
それは物語の中に。
言葉の中に。