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第526話 正義

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


彼らはオフィスを出る。

そこは、図書館の姿を借りた戦場だ。


アルファが武器に弾をつめるような動作。

ベータは大きな太刀を構える。

羅刹はいつものボウガンを手にする。

オフィスにいたその他の司書も、

おのおののエモノを構える。

感じるのだ。

司書という戦士になった彼らだから、

通称・雨がやってくる気配を感じる。


雨は空からやってくるのか。

雨が満ちれば世界は滲んで海にでもなるのか。

空の上の上には何がある。

雨はどこからやってくる。

雨の始まりは一体何で、

どこから雨は落ちてくる。


「正義はどちらにありますか」

羅刹はつぶやく。

ベータが少し笑った。

「正義の味方は物語の中だけじゃないかな」

「そういうものですか?」

「情報は残しすぎればパンクだ。普通に考えればな」

「…ですね」

「だからこっちが愚かと向こうは言うさ」

ベータは太刀を構える。

「でもな、何を残すべきかを選ぶのは、俺達じゃないと思う」

アルファが弾をこめる手を止める。

「そう、選ぶのは雨でも私たちでもない」

アルファが武器を、長い銃らしいものを構える。

「正義はどこにもない。ただ、守る言葉があるだけ」


アルファの武器が火を噴く。

それが合図となって、争いが始まる。

内乱と言っていたか。


太刀はうなり、武器は火を噴き、

それは戦い。

ただし、正義は多分どちらにもない。

羅刹にも正義はない。

巻き込まれたに過ぎない。

正しいということが欠落した戦い。

守るべきものは本であり言葉。

守った果てに、歴史とやらが言葉を消し去るかもしれない。

それでも、羅刹は思う。

司書が戦士にならないほうがいい。

図書館が平和な場所がいい。

言葉の森は平和であって欲しいのは、

羅刹の幻想なのかもしれない。


今、こうしてここは戦場だ。

正義はどこにある。

それは物語の中に。

言葉の中に。

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