これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキが田舎にやってきて。
ナツを友として夏休みを過ごすこと数日。
聞くところによると祭りがあると言う。
「夜、神社にみんな集まるんだよ」
ナツは説明する。
「それは、どういうお祭りなの?」
アキは尋ねる。
「雨の神様に、いろいろなものを送るお祭りだよ」
「おくる?」
「うん、アキでもわかるけど、神様に普通贈り物は出来ない」
「そだね」
「だから、燃やして空に送るんだよ」
「燃やしちゃうの?」
ナツはうなずく。
「いっぱい燃やしたら大変じゃない」
アキはアキなりにいろいろ考える。
環境とか、もったいないとか、
なんだかいろいろ考える。
ナツはそれを察したらしく、ちょっと笑った。
「昔はそのものを燃やしていたらしいけどね」
「今は?」
「送りたいものを紙に書いて燃やすんだ」
「そっかー」
アキは納得する。
「いろんなものをみんなで書いて、雨の神様に送るんだよ」
「ふぅん…」
「贈り物がたくさんあれば、喜んでくれるってさ」
不思議なお祭りだなとアキは思った。
その夜。
ナツとアキは神社に出かける。
浴衣をきて、ちょうちんを明かりに道を歩く。
「はぐれないようにね」
ナツはちょうちんを持って先を歩く。
遠くで祭囃子。
「ほら、あそこ」
ナツが示す神社は、少し明るくにぎわっている。
「このお祭りがあると、夏だなと思うんだよね」
ナツはそんなことをしみじみと。
「ナツは雨の神様に何をおくるの?」
アキの問いに、ナツはちょっと考える。
「おくっても、願いがかなうわけじゃないと思って」
「んー、そういうものかなぁ?」
「うん、雨の神様は、雨は降らせてくれるだろうけど」
ナツが立ち止まり、振り返る。
「願い事をかなえてくれるわけじゃないんだ。きっと」
ナツの笑顔はさびしそうに。
祭囃子はずいぶん近くなったのに、
ナツが遠くにいるような感じがした。