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第528話 祭

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


アキが田舎にやってきて。

ナツを友として夏休みを過ごすこと数日。

聞くところによると祭りがあると言う。

「夜、神社にみんな集まるんだよ」

ナツは説明する。

「それは、どういうお祭りなの?」

アキは尋ねる。

「雨の神様に、いろいろなものを送るお祭りだよ」

「おくる?」

「うん、アキでもわかるけど、神様に普通贈り物は出来ない」

「そだね」

「だから、燃やして空に送るんだよ」

「燃やしちゃうの?」

ナツはうなずく。

「いっぱい燃やしたら大変じゃない」

アキはアキなりにいろいろ考える。

環境とか、もったいないとか、

なんだかいろいろ考える。


ナツはそれを察したらしく、ちょっと笑った。

「昔はそのものを燃やしていたらしいけどね」

「今は?」

「送りたいものを紙に書いて燃やすんだ」

「そっかー」

アキは納得する。

「いろんなものをみんなで書いて、雨の神様に送るんだよ」

「ふぅん…」

「贈り物がたくさんあれば、喜んでくれるってさ」

不思議なお祭りだなとアキは思った。


その夜。

ナツとアキは神社に出かける。

浴衣をきて、ちょうちんを明かりに道を歩く。

「はぐれないようにね」

ナツはちょうちんを持って先を歩く。

遠くで祭囃子。

「ほら、あそこ」

ナツが示す神社は、少し明るくにぎわっている。

「このお祭りがあると、夏だなと思うんだよね」

ナツはそんなことをしみじみと。

「ナツは雨の神様に何をおくるの?」

アキの問いに、ナツはちょっと考える。

「おくっても、願いがかなうわけじゃないと思って」

「んー、そういうものかなぁ?」

「うん、雨の神様は、雨は降らせてくれるだろうけど」

ナツが立ち止まり、振り返る。

「願い事をかなえてくれるわけじゃないんだ。きっと」


ナツの笑顔はさびしそうに。

祭囃子はずいぶん近くなったのに、

ナツが遠くにいるような感じがした。

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