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第529話 頭

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


鎖師は町を歩く。

ゴブリン通りと呼ばれる町は、

鎖師を拒絶するわけでもなく、でも、受け入れるわけでもなく、

ただ、そこにいる異物として見張っているように。

風が何かいうわけでなく、空気が語りかけるわけでもない。

けれど、隙を見てはゴブリンがやってくるぞ。

そんな風にじろじろと静かに見張っているような感覚がする。


斜陽街もへんてこな町だから、

鎖師は気にも留めない。

けれど、見張っているようなゴブリン通りの空気に、

ちりちりと緊張が混じっているのを感じてしまうのは、

やっぱり、へんてこな町に暮らしているものの、性分なんだろう。

「なにかしらね」

鎖師はつぶやく。

答えるものは静かな町に、当然いないのだけど、

それすら気にも留めず、鎖師はてくてく歩く。


何かが足に当たった。

ゴブリンが転がしたゴミだろうか。

もっと質感がある。

鎖師は、屈んでそれを見る。

「ふぅむ」

鎖師なりに驚いた。

それは、頭だけのもの。

首を切られ、頭と言う部分だけになった、多分ゴブリン。

イタズラも熱も何もかも失って、

ただの頭になった、ゴブリンの残骸。


鎖師は首をかしげる。

クビキリが近くにいると言うことだろうか。

「関わりたくないなぁ」

鎖師の本音だ。

鎖師が頭だけになってしまうのも嫌だし、

そうでないにしてもとても嫌だ。


鎖師の輝く鎖がちりちり震える。

何かを予感しているのか、

おびえているのか。

鎖師は、道の真ん中に転がっているゴブリンの頭を、

そっと脇に寄せて、

「なむなむ」

と、よくわからない文句をささげ、

その場をあとにした。


あとは帰るだけ。

それなのに、輝く鎖はちりちりと。

探偵の勘ほどではないけれど、

何か敏感に感じるところがあるのかもしれない。

「なんだかな」

鎖師はつぶやき、てくてくとゴブリン通りを歩く。


ゴブリン通りの空気は、

何かを噂しあっているかのように、

異質な鎖師を見張っている。

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