これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
鎖師は町を歩く。
ゴブリン通りと呼ばれる町は、
鎖師を拒絶するわけでもなく、でも、受け入れるわけでもなく、
ただ、そこにいる異物として見張っているように。
風が何かいうわけでなく、空気が語りかけるわけでもない。
けれど、隙を見てはゴブリンがやってくるぞ。
そんな風にじろじろと静かに見張っているような感覚がする。
斜陽街もへんてこな町だから、
鎖師は気にも留めない。
けれど、見張っているようなゴブリン通りの空気に、
ちりちりと緊張が混じっているのを感じてしまうのは、
やっぱり、へんてこな町に暮らしているものの、性分なんだろう。
「なにかしらね」
鎖師はつぶやく。
答えるものは静かな町に、当然いないのだけど、
それすら気にも留めず、鎖師はてくてく歩く。
何かが足に当たった。
ゴブリンが転がしたゴミだろうか。
もっと質感がある。
鎖師は、屈んでそれを見る。
「ふぅむ」
鎖師なりに驚いた。
それは、頭だけのもの。
首を切られ、頭と言う部分だけになった、多分ゴブリン。
イタズラも熱も何もかも失って、
ただの頭になった、ゴブリンの残骸。
鎖師は首をかしげる。
クビキリが近くにいると言うことだろうか。
「関わりたくないなぁ」
鎖師の本音だ。
鎖師が頭だけになってしまうのも嫌だし、
そうでないにしてもとても嫌だ。
鎖師の輝く鎖がちりちり震える。
何かを予感しているのか、
おびえているのか。
鎖師は、道の真ん中に転がっているゴブリンの頭を、
そっと脇に寄せて、
「なむなむ」
と、よくわからない文句をささげ、
その場をあとにした。
あとは帰るだけ。
それなのに、輝く鎖はちりちりと。
探偵の勘ほどではないけれど、
何か敏感に感じるところがあるのかもしれない。
「なんだかな」
鎖師はつぶやき、てくてくとゴブリン通りを歩く。
ゴブリン通りの空気は、
何かを噂しあっているかのように、
異質な鎖師を見張っている。