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第532話 近未来

斜陽街番外地。八卦池のほとり。

スカ爺はいつものように、そこにたたずんでいる。


八卦池は、多少変わった属性の池だ。

電脳の仮想世界とアクセスが可能であるし、

あるいは霊体との交信も可能であり、

あるいは、何かの卵が沈んであるとも聞く。

噂は噂を呼ぶけれど、

たいてい、この斜陽街ならありうることなんだろうと、

納得されてしまうあたり、ここも斜陽街の一部だ。


スカ爺は八卦池にたたずみ、

杖でたまに池をかき回し、

交信されるどこかの言葉に耳を傾けてはうなずく。

そして、迷子には道を指し示し、

雑談には静かに耳を傾け、

ノイズは静かに安定を促す。

スカ爺は電脳の賢者だろうか。

いや、スカ爺はスカ爺だ。

穏やかな八卦池の守人だ。


八卦池にアクセスがある。

「シャンジャーか」

スカ爺は答える。

『相変わらずかい』

シャンジャーが電脳から八卦池を通してアクセスをする。

「おぬしは」

『相変わらずさ』

シャンジャーは飄々と。


『なぁ、俺達がいるところはなんなんだろうな』

シャンジャーは訊ねる。

スカ爺は少し考え、

「皆が焦がれた近未来の尻尾でござろう」

『あはは、みんなが求めていた未来か』

シャンジャーは笑う。

『そうだな、みんな未来には希望を求めていた』

一人うなずく程度の間があり、

『電脳にも、近未来のネットワークにも、みんな希望があると思っていた』

「疲れているな」

スカ爺はつぶやく。

『そうかもな』

「これから良くなればよい、近未来は始まってすらおらぬぞ」

スカ爺はいつもの調子で答える。

何かをすでに見ている上での言葉のように。

シャンジャーは少し笑う。

『そっか、ここは未来であっても、近未来は始まっていないか』

「そうだ、求めるものはまだ手に入っておらぬ、つかめ、おぬしならできる」


『ありがとう。楽になった』

シャンジャーは満足したようにアクセスから離脱する。

あとには、いつものようにスカ爺がたたずむばかり。

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