斜陽街番外地。八卦池のほとり。
スカ爺はいつものように、そこにたたずんでいる。
八卦池は、多少変わった属性の池だ。
電脳の仮想世界とアクセスが可能であるし、
あるいは霊体との交信も可能であり、
あるいは、何かの卵が沈んであるとも聞く。
噂は噂を呼ぶけれど、
たいてい、この斜陽街ならありうることなんだろうと、
納得されてしまうあたり、ここも斜陽街の一部だ。
スカ爺は八卦池にたたずみ、
杖でたまに池をかき回し、
交信されるどこかの言葉に耳を傾けてはうなずく。
そして、迷子には道を指し示し、
雑談には静かに耳を傾け、
ノイズは静かに安定を促す。
スカ爺は電脳の賢者だろうか。
いや、スカ爺はスカ爺だ。
穏やかな八卦池の守人だ。
八卦池にアクセスがある。
「シャンジャーか」
スカ爺は答える。
『相変わらずかい』
シャンジャーが電脳から八卦池を通してアクセスをする。
「おぬしは」
『相変わらずさ』
シャンジャーは飄々と。
『なぁ、俺達がいるところはなんなんだろうな』
シャンジャーは訊ねる。
スカ爺は少し考え、
「皆が焦がれた近未来の尻尾でござろう」
『あはは、みんなが求めていた未来か』
シャンジャーは笑う。
『そうだな、みんな未来には希望を求めていた』
一人うなずく程度の間があり、
『電脳にも、近未来のネットワークにも、みんな希望があると思っていた』
「疲れているな」
スカ爺はつぶやく。
『そうかもな』
「これから良くなればよい、近未来は始まってすらおらぬぞ」
スカ爺はいつもの調子で答える。
何かをすでに見ている上での言葉のように。
シャンジャーは少し笑う。
『そっか、ここは未来であっても、近未来は始まっていないか』
「そうだ、求めるものはまだ手に入っておらぬ、つかめ、おぬしならできる」
『ありがとう。楽になった』
シャンジャーは満足したようにアクセスから離脱する。
あとには、いつものようにスカ爺がたたずむばかり。