これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
抵抗勢力、アイ・スクリーム。
アイスクリーム販売の車の荷台を改造した、彼らの車に乗って、
ヤジマとキタザワは、彼らの話を聞いていた。
曰く。
彼らはチョコレート革命をしようとしている。
お菓子を解放するべく、そして、舌の幸せを解放するべく、
彼らは戦っていると言う。
「何でチョコレートなんですか?」
キタザワが訊ねる。
「アイ・スクリームのトップがチョコレートと言うコードネームなのさ」
「そうですか」
キタザワはそれでとりあえず納得する。
ヤジマは座って銃の具合を見ている。
話半分に聞いているだけだし、
あまり革命などには興味はない。
「とにかく、われわれは解放をしたいんだ」
「うんうん」
アイ・スクリームの話を、キタザワはまじめに聞いている。
「キタザワ、ここは斜陽街じゃないよ」
ヤジマは銃から目を離さずにつぶやく。
「革命でひっくり返ったところに、何が起きるかわからない」
ヤジマは続ける。
「甘いものの利権に群がる、虫のようなやつも出るさ」
アイ・スクリームの誰かは、苦笑いをして、
「それはわかるさ。でも」
「それでもひっくり返したい、か?」
「そうだな。それくらい俺達は甘いものに飢えている」
「まぁいいや。甘いもの食べたら、歯磨きちゃんとしなよ」
ヤジマは言って、銃から目を離す。
「求めたこと、やったことの始末はちゃんとつけな」
アイ・スクリームの連中はうなずく。
「ミント!奴ら追ってきたぞ!」
「来たか、バニラ、ちょっと急いでくれ!」
荷台の彼らが騒がしくなる。
「あの、どなたか答えていただきたいんですけど…」
キタザワが声をかけようとする。
「あたしでいい?」
荷台に乗っていたアイ・スクリームの女性が、
キタザワに声をかける。
「あの」
「あたしはストロベリー。それで、聞きたいことは?」
「何をしに、どこへ行くのでしょうか?」
ストロベリーは笑う。
「革命ののろしを、どっかんとあげに」
アイスクリームの車は、アクセル全開で走る。