これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
図書館の中は戦場だ。
戦う彼らは全て司書だ。
言葉を本を愛するもの。
それがどうしてこうなった。
羅刹は、ぐるりと周りを見た。
乱戦になっていて、どちらが味方ともわかりにくい。
司書同士なら、敵味方がわかるのかもしれない。
しかし、いかんせん羅刹はよそ者だ。
加えて、誰彼かまわず攻撃をする気も起きない。
羅刹はボウガンを持ち直し、
状況を把握せんと試みる。
羅刹は戦うことも慣れているが、
殺すことのほうが慣れている。
本来羅刹はそういうものだった。
今、どれを殺せばいいか。
羅刹は飛んでくる攻撃をかわしながら、
一人の女にターゲットを絞る。
髪の長い、色の白い、背の高い女。
装備は他の連中と変わらないけれど、
羅刹はその女を、通称・雨と認識した。
どこかの探偵のように勘が働くわけでなく、
こればっかりは羅刹の戦いの直感である。
通称・雨は、半端な位置にあると羅刹は認識した。
探しているんだ、この図書館の中の、
雨が運んできたと言う本を。
あの女が元凶。
そして、あれを殺せば片がつく。
司書たちの主義主張が食い違っているのを、
一人殺してチャラになど出来ない。
それこそ物語の中でなら別だけども、
とにかく、武器で主義を語るのと、言葉で主義を語るのは、
きっと大きく違うはず。
羅刹は呼吸を整え、
通称・雨を追う。
平和のための殺しなど、洗い屋のあの人は納得しないかもしれない。
でも、血液をかぶるのは羅刹だけでいい。
本が血を吸ってはいけない。
羅刹は戦場の中、通称・雨を追う。
彼女はただ、求める本を奪わんと走る。
それが彼女の理想の本なのか。
羅刹は理解しがたい。
とにかく、彼女を殺す。
羅刹の脳裏に、洗い屋の女性。
本を贈ったら喜んでもらえるだろうか。
血まみれでも大丈夫だろうか。
どんな言葉を喜んでくれるだろうか。
奪われてなるものか。
羅刹は、走る。