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第536話 奪取

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


図書館の中は戦場だ。

戦う彼らは全て司書だ。

言葉を本を愛するもの。

それがどうしてこうなった。


羅刹は、ぐるりと周りを見た。

乱戦になっていて、どちらが味方ともわかりにくい。

司書同士なら、敵味方がわかるのかもしれない。

しかし、いかんせん羅刹はよそ者だ。

加えて、誰彼かまわず攻撃をする気も起きない。

羅刹はボウガンを持ち直し、

状況を把握せんと試みる。

羅刹は戦うことも慣れているが、

殺すことのほうが慣れている。

本来羅刹はそういうものだった。

今、どれを殺せばいいか。

羅刹は飛んでくる攻撃をかわしながら、

一人の女にターゲットを絞る。


髪の長い、色の白い、背の高い女。

装備は他の連中と変わらないけれど、

羅刹はその女を、通称・雨と認識した。

どこかの探偵のように勘が働くわけでなく、

こればっかりは羅刹の戦いの直感である。


通称・雨は、半端な位置にあると羅刹は認識した。

探しているんだ、この図書館の中の、

雨が運んできたと言う本を。

あの女が元凶。

そして、あれを殺せば片がつく。

司書たちの主義主張が食い違っているのを、

一人殺してチャラになど出来ない。

それこそ物語の中でなら別だけども、

とにかく、武器で主義を語るのと、言葉で主義を語るのは、

きっと大きく違うはず。

羅刹は呼吸を整え、

通称・雨を追う。


平和のための殺しなど、洗い屋のあの人は納得しないかもしれない。

でも、血液をかぶるのは羅刹だけでいい。

本が血を吸ってはいけない。


羅刹は戦場の中、通称・雨を追う。

彼女はただ、求める本を奪わんと走る。

それが彼女の理想の本なのか。

羅刹は理解しがたい。

とにかく、彼女を殺す。


羅刹の脳裏に、洗い屋の女性。

本を贈ったら喜んでもらえるだろうか。

血まみれでも大丈夫だろうか。

どんな言葉を喜んでくれるだろうか。


奪われてなるものか。

羅刹は、走る。

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