これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
キュウは椅子に腰掛ける。
ウツロはそんなキュウをぼんやり見ている。
ウサギはお茶を彼らの前に置いて、
「さぁ、軽くお茶会にしましょう」
と、微笑む。
キュウはお茶を一口飲んで、
「まぁ、おいしい!」
と、一言。
「ウサギ殿のお茶は、間違いがないでござる」
「すごいわ。はじめて、こんなお茶」
言葉を交わす家具屋入道とキュウ。
ウサギは誇らしいのと照れくさいのが混じった顔をしている。
オオカミはウツロのほうを見る。
茶を飲んだはいいが、何と表現していいかわからないように見えた。
何かを求めるように、ウツロはオオカミを見る。
オオカミは苦笑いして、
「それはな、おいしいって言うんだ」
「おいしい」
ウツロは復唱する。
身体の中に青い空が広がる感覚。
この青の中に存在できたら、とてもいいような気がした。
「おいしいお茶をご馳走様」
キュウは礼を言って、ウサギのほうに視線を向ける。
「ウサギさん、あなたはお茶のプロなのかしら?」
「ええ、まぁ」
「それならば、私が探しているお茶もあるのかしら」
「どうでしょう?」
「ありえないお茶って言うらしいの」
「ありえない?」
「ありえないとしか知らないの」
ウサギは少し考え、
「思い当たるの、あります」
と、答える。
「本当?」
「プロですから」
ウサギは微笑む。
「それじゃ、ひとっぱしり店に取りに行ってきますね」
ウサギはカウンターから出て、ドアに向かう。
一度振り返って、
「お茶はウツロさんが飲むのでしょう?」
「なんで、そこまで? 探しているとしか言っていないのに」
キュウは戸惑う。
「奴はお茶のプロさ。何を求めているかもわかるさ」
オオカミの言葉にウサギはうなずき、
「いってきます」
と、扉を開けて出ていった。
ウツロのためのありえないお茶。
ウツロ自身は、ありえないと言うことがいまいちわかっていない。
ただ、ここはとても気持ちがいい、それは、よくわかるような気がした。