斜陽街二番街。通称猫屋敷。
たくさんの猫が暮らしているから、通称猫屋敷。
人の女主人がいるにはいるけれど、
必要以上に束縛をせず、
飼うと言うよりやっぱり屋敷の主人で、
そこで礼儀と自由を愛する猫が、今日も気ままに鳴いている。
今日は客人がいる。
レンタルビデオ屋の主人と、廃ビルに居ついている詩人だ。
この二人は妙にウマが合うのか、
たまにどこかで茶をすすりながら、
ポツリポツリ話していることがあるらしい。
とても饒舌ではない。
饒舌でない点は、猫屋敷の女主人も一緒だ。
どこかから仕入れた気持ちのいい香りのする茶をいれて、
猫屋敷のささやかな集まり。
ただ、いるのは猫のほうが圧倒的に多いけれど。
「猫ですねぇ」
詩人がつぶやく。
「猫は怖くないですね」
言いながら、レンタルビデオ屋がそばにいた白猫をなでる。
白猫は気持ちよさそうに目を細める。
「どこだったかしら、世にも恐ろしい三毛猫って」
猫屋敷の女主人は、そんな話をする。
「世にも恐ろしいとは?」
詩人が聞き返す。
レンタルビデオ屋の主人も、聞きたそうにしている。
怖がりなくせに、恐怖を知ろうとする好奇心は強いらしい。
猫屋敷の女主人は話す。
どこかに知りたがりの白黒の猫がいた。
猫の神様は、隠れた事を知りたがるのはよくないと教えた。
それでも猫は、隠れたものを知りたいと思ってしまった。
身に隠れた、内側を知りたいと思った。
猫は、その爪で、切り裂き、あらゆるものを暴かんとした。
猫同士を、動物を、人を。
猫は返り血にまみれ、赤白黒の世にも恐ろしい三毛猫になった。
「…と言うお話なんだけど」
猫屋敷の女主人は言葉を区切る。
「その猫がどうなったかは、わからないの」
「おや、落ちないのですか」
レンタルビデオ屋の主人は、意外そうに。
「神様が罰を与えたとか、いろいろ話はあるでしょうに」
詩人もおおむね同意らしい。
「よくわからないの、でも」
「でも?」
「わからないことを知りたいと求める。それは悪かしらね」
詩人はちょっと考えて、
「わかりません。でも、切り裂くのは勘弁ですね」
猫屋敷で猫がなく。
いつものように気ままな猫が。