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第544話 時間

斜陽街一番街。熱屋と病気屋の店が隣り合っている。


熱屋は何か過去にあったらしく、

それ以来、人から熱を取り出すことができるようになったと言う。

中途半端な年齢あたりで時を止めた、

少女とも女とも、言いがたい彼女だ。


隣の病気屋は、病気を売ることを職業にしている。

病気を解析し、必要な人に病気を売る。

暇があれば熊みたいな大柄な病気屋は、

身体を丸めるようにして、ずっと研究にかかりきりになっている。

過去に何かあって、病気をずっと調べるようになったらしい。

何か、彼でもわからない病気があるのかもしれない。


彼らは隣り合って、寄り添うように。

時を止めた熱屋と、熊のような病気屋は、

過剰に求め合うこともなく、

離れるわけでなく。

幼馴染がそうであるように、

恋人と言うものが考えられない純粋さで。


背中を預ける関係でなく、

抱擁の関係ともまた違う。

肉体の時間は変わってしまったけれど、

彼らは同じ時間の上で、隣り合っていろんなものを見ている。

ともすれば少しばかり感情の足りなくなりがちの、

熱屋の微笑を、病気屋はつらいと思い。

研究に打ち込みすぎになりがちの病気屋を、

熱屋はどうにかできないだろうかと思う。

彼らは思いあっている。

けれどそこに、多分愛はあっても恋は少し違う。

そして、彼らはどちらの意味もわかってはいない。


たまに、彼らはあたたかい飲み物なんかを飲んで、

疲れを癒して微笑みあう。

そこにうつろな笑みがないことを、

病気屋は気がついていないかもしれない。

病気屋は病を売っているかもしれないけれど、

非売品で癒しもあることを、彼は気がついていない。

そして、その癒しが、隣の熱屋にちゃんと卸されていることも、

彼らはぜんぜん気がついていない。


彼らは少し歪んだ時間を持っているかもしれない。

けれど、彼らはがんばって互いのためにならんとして、

そして、それは互いのためにちゃんとまわっていて、

ある意味とても幸福なのだけど、

彼らはとても不器用で、気がついていない。


今日も彼らは、互いの幸せを求めてみる。

そばにいるだけで幸せだと、気がつくのはいつだろうか。

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