これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
夏休みがもうすぐ終わると言う頃。
アキは親戚の家の庭で、
少し穏やかになった日差しを感じていた。
季節は変わる。
どんなに夏を愛していても、
季節は変わってしまう。
アキはそれを少しさびしく思い、
また、仕方ないとあきらめている。
空は高く遠く。
夏はどこに行ってしまうんだろう。
つかめない季節。
でも、夏があったことは、疑いようのない事実なのに。
夢のように忘れてしまうんだろうか。
「夢のように」
アキはつぶやく。
そうして、楽しかった田舎の夏を思い返す。
そこにはナツがいた。
狐面をトレードマークにした少年。
夢物語で終わらせたくない。
アキは、強く、ナツに会いたくなった。
アキは田舎町のあちこちをナツを求めて走る。
ナツはどこにいってしまったのか、
ナツはなかなか見つからない。
やがて、日差しは傾き、アキは疲れて、
とぼとぼと舗装されていない道を歩く。
トンボはいつの間にか赤いものが飛んでいて、
もう、季節は戻ってこないと、言っているようだった。
「アキ」
うつむいて歩いていたアキに、聞きなれた、声。
顔を上げると、ナツが、いつもと変わらないようにいる。
アキは、文句を言いたかった。
どこにいっていたんだと、何か言いたかった。
それでも、出てくるのは涙ばかりで、
ナツは困ったように、微笑むばかりだった。
「アキ、永遠って信じるかい?」
ナツは、魔法をかけるように。
「永遠の夏休みに、アキを閉じ込めることも出来るんだけど」
ナツは、アキにそっと近づいて、壊れ物のようにアキを抱きしめた。
「僕は、アキを閉じ込めることは出来ない」
「ナツ…?」
「アキは季節をいっぱい重ねて。もっと素敵になってほしい」
ナツは、抱きしめる腕に力をこめる。
「愛していました」
ふっといましめが離れたと、思ったその時には、
ナツはもう、そこから消えていた。
アキの答えを待たず、
秋が来ることを待たずに。