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第548話 永遠

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


夏休みがもうすぐ終わると言う頃。

アキは親戚の家の庭で、

少し穏やかになった日差しを感じていた。

季節は変わる。

どんなに夏を愛していても、

季節は変わってしまう。

アキはそれを少しさびしく思い、

また、仕方ないとあきらめている。


空は高く遠く。

夏はどこに行ってしまうんだろう。

つかめない季節。

でも、夏があったことは、疑いようのない事実なのに。

夢のように忘れてしまうんだろうか。

「夢のように」

アキはつぶやく。

そうして、楽しかった田舎の夏を思い返す。

そこにはナツがいた。

狐面をトレードマークにした少年。

夢物語で終わらせたくない。

アキは、強く、ナツに会いたくなった。


アキは田舎町のあちこちをナツを求めて走る。

ナツはどこにいってしまったのか、

ナツはなかなか見つからない。

やがて、日差しは傾き、アキは疲れて、

とぼとぼと舗装されていない道を歩く。

トンボはいつの間にか赤いものが飛んでいて、

もう、季節は戻ってこないと、言っているようだった。


「アキ」

うつむいて歩いていたアキに、聞きなれた、声。

顔を上げると、ナツが、いつもと変わらないようにいる。

アキは、文句を言いたかった。

どこにいっていたんだと、何か言いたかった。

それでも、出てくるのは涙ばかりで、

ナツは困ったように、微笑むばかりだった。


「アキ、永遠って信じるかい?」

ナツは、魔法をかけるように。

「永遠の夏休みに、アキを閉じ込めることも出来るんだけど」

ナツは、アキにそっと近づいて、壊れ物のようにアキを抱きしめた。

「僕は、アキを閉じ込めることは出来ない」

「ナツ…?」

「アキは季節をいっぱい重ねて。もっと素敵になってほしい」

ナツは、抱きしめる腕に力をこめる。


「愛していました」


ふっといましめが離れたと、思ったその時には、

ナツはもう、そこから消えていた。

アキの答えを待たず、

秋が来ることを待たずに。

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