これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキがいつものように鍛錬に励んでいたある日のこと。
賢皇帝からの使いの者が来た。
使いの者が賢皇帝の文らしいものを読むに、
アキを正式な勇者にするべく、
中央都市で勇者の儀を執り行う。
勇者になったあかつきには、
魔王討伐隊の一員として、その腕を振るってもらう。
早く中央都市に来られたし、
とのことだ。
アキはうなずいた。
「旅の支度を整えましたら、すぐにでも」
と、アキは答えた。
そして、もともと少ないアキの荷物をさっさとまとめると、
アキは中央都市に向けて旅立っていった。
この帝国は緑に満ちている。
アキはそう思う。
不安を抱えさせる魔王がいなければいいのにと、
アキはそう思うし、
なんでやっつけないんだろうかと思う。
中央都市の宿泊施設にアキは泊り、
勇者とはどうあるべきかを考えていた。
いつの間にか夜になり、
アキは眠ろうかと思った。
ノック、2回。
「誰?」
アキが尋ねると、勝手にドアが開いた。
フードをかぶった人が入ってきて、
後ろ手でドアを閉めた。
「すまない、隠れてきたんだ」
フードを外せば、それは遠目で見たことのある賢皇帝。
「一度話をしてみたかったんだ、勇者になりたいという、アキ、そなたと」
皇帝が口調を砕いてくれているのがわかる。
アキは精一杯緊張するのを砕いた。
「今夜だけ、友でいてほしい。明日には皇帝と勇者という身分の隔たりが出る」
「はい」
「さて、何を話そう。そうだな、昔、龍の力で滅んだ国があったという…」
賢皇帝はさまざまの話をアキとした。
アキもそうだが、賢皇帝も、
友がほしかったのだと、この夜に思った。