目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第578話 静寂

羅刹はどこかにやってきた。

先ほど、何かにつまづいて落ちた水は、

どうやら水路のものらしい。

とりあえず、水路から上がり、

先ほどから見えていた、白い町を歩くことにする。


空も白。

建物も白。

静かな町。

感覚を閉ざしてやってきた町。

扉を開けた感じはしなかったけれど、

どこか、別の町だということは確かだ。


人が、ポツリポツリいる。

服はやはり白で、

目立たないように、よりも、

白から発生したものに思われた。

町も人もみんなみんな。


羅刹は自分の姿を見て、苦笑いした。

いつものように黒づくめだからだ。

明らかに異質なものだし、

この町から出て行けと言われても仕方ないと思った。


まぁ、そうなったときはその時。

羅刹は服がいつの間にか乾いていることを感じる。

ここがどういう町かはわからないけれど、

排除しようという気配は感じない。


気配、そうだ。

なんとなくではあるけれど、

人の気配、音、風の流れ、

そういうものが、一つの流れになっていて、

一つ一つの小さいものを感じ取るのが難しいと感じた。

個人を越えた流れだろうか。

羅刹としては、初めての感覚で、戸惑うばかりだ。

ただ、この感覚を知っているという、羅刹の奥の羅刹が呟いている。


静寂の町。

誰もしゃべっていないということに、羅刹はようやく気が付く。

声が何一つ聞こえない。

音がないわけではないようだ。

それがこの町のルールなのかもしれない。

羅刹はとりあえず、しゃべらないことにした。

不便があったらどうするかは、後で考える。


羅刹は黒いスーツのまま、

白い静寂の町を歩く。

優しい気配がつつんでいる、

真っ白な町を。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?