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第583話 余興

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


砂漠で行われる、華麗なるサーカス。

しばし外が砂漠であることを忘れるくらい、

サーカスは見る者の心をわしづかみにした。

美しく、ハラハラして、そして喝采を送る。

最高のサーカスだ。


螺子師もいろんなことをしばし忘れた。

隣にいるのが螺子ドロボウであることすら、しばらく忘れた。

それほど夢中になった。


サーカスの舞台となるテントでは、

おどけたピエロが大きなセットの後片付けをしていた。

ピエロメイクをしていない大道具係が片づけをして、

ピエロはもっぱら、おどけて間を持たせているのだけれど、

さすがプロ、笑いをちゃんととっている。

しかし、大道具が何か手違いがあり、

どうにもこうにも片づけられない。

どうしたんだろう。

何か引っかかっているらしい。


螺子師もおかしいなと思い始めたその時、

ピエロの前に、見覚えのある人影がすっと現れた。

螺子ドロボウだ。


螺子ドロボウは大道具現場にちょっと近寄って、

ピエロと何か会話のようなそぶりをして、

指を3本上に出してみせる。

次に2となり、1になり、ゼロになったその時、

大道具がばらばらに壊れた。


壊れた大道具は、

大道具係が手早く片づけをし、

サーカステントでは、次の催し物が行われようとしていた。


螺子ドロボウは涼しい顔して戻ってきて、

「余興ですよ」

と、螺子師に告げた。

螺子師は不満だったが、

「あとで螺子を戻しに楽屋に行きましょう。次の出し物も始まりますよ」

螺子師は、とりあえず咎めることはやめた。

それこそ、余興に対して野暮だと思った。

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