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第589話 端末

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


探偵はやかましい町にいる。

情報の氾濫が、

視覚化しているような感じだなと思う。

そう思った後、少し違うかなとも思う。

情報というより、

もっとプライベートなものが、

町いっぱいに流れている気がした。

どうしてそう感じるのか、

探偵は通りに置いてあるベンチに座って観察した。


コーヒーショップにいた時のように、

誰も目を見て会話をしている人はいない。

端末を介して、会話をしているらしい。

思うに端末は無線だし、

電波に乗って誰かと会話しているのだろう。

歩きながら、何かを待ちながら、何かを食べながら、

端末を使って会話をしている。


探偵は大体この町のうるささのもとを理解する。

みんな端末で話している。

探偵の感覚では、

古い感覚なのかもしれないけれど、

電話や端末の会話というものは、

プライベートなことだ。

そのプライベートな会話をいうものが、

携帯型端末をみんなで持って、

町中を、みんなの部屋というていで会話している。

家にあるはずの自分の部屋というものが、

家を飛び出し、町中を部屋にしている。

表現があっているかはわからないけれど、

町はみんなのプライベートルーム。

公共というものが死語になっているかもしれない。


プライベートの会話は、

電波に乗ってどこかにいる誰かのもとへ。

ここにいない誰かに。


この町のごちゃごちゃのうるささは、

誰も片づけない部屋に似ていると探偵は思った。

物が出しっぱなしになっていても、

自分が取り出すときに分かればいい。

特に片付けしなくても、

そう、端末さえあればいい。


電波に乗ったプライベート。

端末は多分何より大切だろう。

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