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帰りたい(314回目)  若き者からの学び

 アタシたちは拳を付け合わせた。ここから反撃だ!


「作戦会議は終わったのか? 私の攻撃のインターバルを理解したのか」

「随分あっさり認めんだな、企業秘密じゃあなかったのかよ」

「その程度看破されたところで、どうにか出来るものでもなかろう」


 おっはんは、自分の魔物に随分と自信があるみたいだった。

 確かに【蟲遣い】を名乗るだけのことはある。


 爆発する岩が、空中に浮いて飛んでくる。正攻法じゃ勝てっこなさそうだ。


「いや、手の内が分かったんだ。次の爆破をしのげばアタシたちの勝ちってことだろうが!」

「ふん、よき威勢だ。やはり先程油断してあっさり焦げたあの女軍人とは、貴様らは格が違う」

「……………………」


 ミリアの事だ。おっさんはミリアを指して挑発してきている。

 格が違うって、何だよ────


「クレアちゃん挑発に乗っちゃだめ!」

「いや、大丈夫だセルマ。なぁおっさん、あんたの言うことは何も間違っちゃいねぇ」

「ほう?」


 敵の基地で油断して、勝手にふらふらどっかにいって、挙げ句爆破されて死にかけてる。


「そうさ、何も間違ってねぇよ。ここでのミリアは最悪だった。

 それでもアイツがバカにされりゃあ、ムカつく。失敗すりゃあ、カバーしたくなる。バカやって死にかけたんなら────会ってぶん殴ってやりたくなるのが、仲間ってもんだろ!」


 そうだ、マヌケやらかそうと役に立たなかろうと、アイツは仲間でアタシの居候だ。

 全部全部、お互い生きて会ってからじゃねぇと、何も始まらねぇ。


「クレアちゃん、いいわねそれ。自分も同意見。絶対に勝ってここを出ましょう!」


 そう言ってセルマが脇腹を小突く。だからそれやめろって!



「なるほど、その答え若いな。若く、これ以上なく清々しい! 久しく私が忘れていた感覚だ。挑発するつもりが、こちらが教えられてしまうとはっ!」


 笑いながら、おっさんが“爆岩虫”を自身の周りに浮かせた。



「ならば最後の試練だ! この嵐、潜り抜けて見せろ!」

「よしセルマ、行くぜ!」

「はいな!」


 アタシたちはおっさんに向かって走り出す────と見せかけて、背後の監獄の扉へと走った。


「なにっ!? 逃げるか貴様ら! 失望したぞ!」

「真正面から戦う必要なんてないじゃない!」

「そーだそーだ!」


 セルマが扉を塞いでいたバリアを解除。そのまま扉を開け、そのままジュリエットの掘った横穴まで走る。

 後ろからは、おっさんが追いかけてくる気配!


「捕虜どもは既に逃げたか! しかし貴様らは逃がさん、終わりだ! “爆岩流星群”!」

「クレアちゃん寄って! ハイ・バリア!」


 いくつもの岩が降り注ぎ、セルマのバリアに負荷がかかっていく。


「ぐっっ、あっ!!!」

「セルマ!!」


 岩の隙間から、おっさんが見える。その手はまさに、指を鳴らそうと構えている瞬間だった。


「しまいだ! 合格者共!!」


 岩が爆発し、洞窟が揺れる────



   ※   ※   ※   ※   ※



「散ったか」


 衝撃が去った後、おっさんはひとり先ほど敵を押し潰した場所まで歩いた。


「最期はともかく、若くして惜しい合格な兵士たちだった。そろそろ私もここから脱出しなければ……」


 そう、今だ────!

 おっさんが油断した瞬間、アタシたちは隠れていた牢から走り出た!


「“魔力砲ファル”!

「がっ!?」


 おっさんは真後ろに立つ私たちに反応できず、セルマの不意打ちに腹部を抉られ悶える!


「ぐっ、なぜ背後に!? “爆岩流星────」

「“ドラッヘ・シュナイデン”!」


 勝負は一瞬だった。


 虫が動き出す前に、アタシはおっさんにボードで接近して、そのまま胸を切りつけた。

 入った。今度こそ、致命傷だ。



「がっ、はっ……」


 しかしおっさんはふらふらしながら、なおも壁に手を掛ける。


「ま、まだ動くのかよ……!」


 しかしそのまま岩が動くことはなく、おっさんは膝をついた。

 血が広がり、レンガに染み込んでいく。


「いったい、どうやって、背後に…………」

「人に点数つけんなら、最後にちったぁ自分で考えてみろよ」

「ばっ、“爆岩虫”に潰される直前、術師が懐に隠していた予備の魔方陣から、最初に敷いていた魔方陣まで転移し、て────」



 そう、おっさんが地下牢の方まで追ってきたことで、最初にジュリエットを転移させたまま敷きっぱなしになってた魔方陣が、ヤツの背後にきた。

 だからアタシたちはおっさんの隙をついてセルマの持っていた予備の魔方陣でおっさんの背後まで転移し、不意打ちで攻撃が出来たんだ。


 外との転移は出来なくても、内側間なら出来ると言うセルマの案に乗っかった。


「仲間が全員逃げおおせたとも限らんのに、賭けに出たか……」

「全員逃げきったのは分かってたぜ。おっさんが避けた“一角獣アインホルン・シュトローム”は、索敵用の技だ。あれを使った時には、仲間が脱出済みだって分かってたんだよ」

「なに、してやられた、と言うわけか……」


 負けたはずなのに、おっさんはニヤリと笑う。

 苦し紛れだとしても、アタシはその胆力に応えたかった。


「これは流石に、予想してなかったろ?」

「あぁ。私が点数を付けるまでもなかった、か────」



 ドサリと仰向けに、おっさんが倒れる。


「【蟲遣い】メイナード・グランダ。アンタの名前覚えとくぜ」


 アタシはおっさんを踏み越えて、出口の横穴へ歩く。

 いまさっきの爆発で、完全に穴が塞がってしまった。


「あーあ、しゃあねぇか。セルマ、入ってきたとこまで戻ろうぜ」

「そうね……」



 その時、突然地面が大きく揺れた。

 横に大きく振動する基地内、上からいくつか岩が降ってくる。


「やべぇ、崩れるのか!?」

「こ、こんなタイミングで!」


 きっとメイナードのおっさんが派手に爆発させ過ぎたせいで、洞窟が耐えられなくなったんだ。

 自分も死ぬかもしれないから崩れないように調節するだろうと踏んでたけど、そこまで考えてなかったらしい。


「やりすぎだぜおっさん!」

「ちがう、この揺れは私のものではない。動き出したのだ……」

「な、何がだよ?」


 おっさんは震える手で、天井を指差す。


「え、天井?」

「この基地自体が、ラディウス様の契約した巨大な魔物なのだ。恐らく、情報ごと抹消するための術式が発動した────」

「なっ!」


 つまりアタシたちは、巨大な魔物の腹の中にいるってことか!?

 それが動き出したなら、こんなところ長居できねぇ!


「セルマ、早く逃げるぞ!」

「うん、でもクレアちゃん。あれ見てよ……」


 セルマが指差した方向を見ると、さっきの揺れで入り口が完全に塞がっていた。


 揺れる基地、消えていく照明、アタシは急いで足元にいるおっさんにつかみかかった。



「ど、どうしたの!?」

「こうなりゃ敵にでも縋るしかねぇ! おいメイナードのおっさん、お前あの入り口の虫退かせ! お前の命令なら出来んだろ!」


 今さっき「名前覚えとくぜ」とか言っておいてこれは、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 けど流石に命には変えられねぇだろ!


「その言葉に、オレが従う必要はなかろう……」

「ここで仲良く下敷きになって死ぬこたねぇだろ! アタシがお前も担いで洞窟出てやっから、道を開けろ!」



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