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第37話 世話係に訪れる春!?

 放課後。

 私は司、朱莉、三神君と一緒に駅付近にあるカラオケボックスにやってきていた――――


 大体三時間ちょっと遊ぶことを目安にフリータイムで利用している中、三十分くらい経って四人共が最低一巡は歌った頃に、司が空になったコップを持ってドリンクを入れに部屋を出たので、私もそのあとに続くようにしてコップ片手に部屋をあとにした。


 現在進行形で歌っているであろう三神君はもちろん朱莉もあとをついて来ていないことを確認してから、ドリンクバーコーナーで見付けた司に詰め寄った。


「ちょっと……!? どういうつもりですか、司っ……!?」


 一応潜め気味の声で問い詰めたが、コップにコーラを注ぐ司は「ん~?」と気の抜けたような返事を返してくる。


「どういうつもりって?」

「何で遊びになんかついてくることにしたんですかってことです」


 コップに八割ほどコーラを注ぎ終わった司が、カップを持ち上げて場所を譲りながらニヤリと口許を歪めた。


「いやぁ、結香が遊びたくて遊びたくてたまらなさそうな顔してたから?」

「そんな顔した覚えはありません」


 私は司に半目を向けながら、代わるようにドリンクサーバーにコップを置いてコーラを注ぐ。


 すると、司はシュワシュワと炭酸が弾ける音が奏でられるコップを口許で傾けると、一口含んでから言った。


「でも、俺のことがあるから遊びにはいけないって思ったのは事実だろ?」


 意外にも真面目な口調による指摘に、私はすぐに言葉を返すことが出来なかった。


 それが理由の全てというワケではないが、確かに私にとって司の世話係としての役目が最優先であり、それを放棄してまで友達と遊びに行くことは出来ないのは事実だった。


 そんな私の些細な反応を肯定と受け取った司は、可笑しそうに小さく笑った。


「わっかりやす」

「う、うるさいですねぇ……」

「でもまぁ、俺が一緒にいれば結香も遊びに行けるってワケだ。俺の傍から離れてないって点では、護衛の役目も果たしてるしな」


 つまり、司は私が遊びに行けるように自分もついて来てくれた……ということなのだろうか。


 でも、何のために?

 四六時中司の世話係として働いている私のために、息抜きの機会を作ってくれた?

 それとも、学校で他の人との関わりが生まれた私に気を遣ってくれた?


 その真意を私が尋ねるより早く、司は先に部屋へ戻るために肩を竦めて私の横を通り過ぎていった。


「ま、折角の機会だ。楽しんだもん勝ちだぞ」

「ちょっ……」


 そう言い残した司の姿は見えなくなる。


 あとに残された私はしばらくその場に呆然と佇んだままでいたが、なかなか戻らなくても朱莉や三神君に不審がられると思い、考えても答えの出そうにない疑問を頭の隅に追いやってから、部屋に戻ることにした――――



◇◆◇



 カラオケは当たり前の流れのように採点方式。

 基本的に三神君から歌い、司、朱莉、最後に私という順番のもとマイクが渡っていく。


 三神君と朱莉は最近の流行りのポップスを中心に歌い、点数も私と同じような八十点半ばを安定的に取っていくくらいの歌唱力で、普通に楽しく聞いていられる。


 そんな中で何を歌ってもバンバン九十点台を叩き出していく司は、やはり流石と言うべきだった。


 プライベートで私と二人でカラオケに行くときは飽きるほどアニソンを熱唱しているし、本人もそうしているときが一番楽しそうではあるが、流石に学校での王子様キャラを破壊しかねないので、有名どころのポップスから時々洋楽も交えて歌い上げていっていた。


 毎度司が歌い終わったあとは心からの拍手が送られる。


「で、で? 実際のところどうなんですかねぇ~?」

「え?」


 それは三神君がテレビ画面に映し出された音程バーと歌詞を見ながら歌っているときのことだった。


 隣に座っていた朱莉が、カラオケ音源に掻き消されないように――それでもテーブルの向かいに座る司と三神君には聞こえない声量で耳打ちしてきた。


「三神君だよ~! 何か、結ちゃんに気がありそうじゃないですかぁ~?」


 突然何を言い出すかと思えば、朱莉の大好物である色恋ネタであった。


 何を根拠にそんなことを言っているんだと呆れた目を向けたが、朱莉はニマニマと楽しくて仕方がないと言わんばかりの表情を浮かべている。


「朱莉、いっつもそんなこと考えてるの?」

「そりゃもちろん!」

「そんな頭だから、何でも恋愛に結び付けちゃうんだよ」


 確かに最近三神君と関わる機会が多い気がする。

 学校ではよく話し掛けられるし、何かと頼りにされることもある。


 しかし、それは普段三神君が行動を共にしている司グループの面々に対しても同じこと。


 あくまで同じクラスの一員として。

 その中でも少し話す機会の多い、ちょっと仲が良いかもしれない友達――という関係でしかないはずだ。


 しかし、朱莉は私の指摘にかぶりを振った。


「違うんだよぉ~! これは、私の勘がそうだと言っているっ!」

「何で私が朱莉の勘を信じると思ったの?」

「えぇ~! 信じてよ~!」

「ほら朱莉。そんなことより、次に歌う曲決めたの? つ……院瀬見君はもう予約してるみたいだよ?」


 これ以上朱莉の邪推に付き合う気はないので、少しばかり無理矢理に話題を切り替えて、私は朱莉の前にタッチパネルを置いたのだった――――



◇◆◇



【院瀬見司 視点】


 これは、カラオケボックスを出てすぐのこと。


 結香と東山が一旦お手洗いのために離れたとき、俊也が司に何気ない一言を掛けた――――


「……俺さ~、近衛さんに告ろうかな」

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