松山綾善。修行僧としての名が【光善坊】。
彼が野心に目覚めたのは子供のころからだった。
彼の父親は病院お抱えの弁護士だった。人命を扱う場所故少しのミスも許されない職場だが、人間とは意外とミスを犯すものだ。彼は医師や看護師が仕事中のミスで被害が出た場合、無罪は取れなくとも最低限に罪を軽くすることを前提に仕事をしていた。
だが綾善が小学生のころ彼の父親は自殺した。マスコミのスキャンダルにより【殺人弁護士】と言う不名誉なあだ名を付けられ、イメージダウンを危惧し病院から追い出されたのだ。
死ぬ前日『死にたくない…。俺は悪くないんだ』と言っていたのを覚えている。
誹謗中傷され、生きるのも地獄。死ねばこれまで培った地位も富も捨てることになる地獄。忘れ去ったはずの罪に対する呵責の念と葛藤に果てに綾善の父親は自殺を選んだ。
残された綾善と彼の母はマスコミの手から逃れるため田舎へと移住した。
母は安息を得て安心していたが綾善は違っていた。
どうして自分達が逃げなければならないのか。
それは父が優秀なだけの男だったからという結論になった。
「この世には利用される人間とそれらを支配する人間の2人しかいない。父は弁護士だったが所詮は利用される人間だった。私はそうはならない。無能な凡人も、ずる賢い金持ちも利用する人間になってやる…! たとえ泥水を啜ろうと…!」
松山綾善、彼は表向きには人当たりの人間と言う仮面を被っていたが、その裏では利用価値の有無で相手を選び関係を築いていた。人を使う為必要な資金を貯めるべくバイトにも勤しんだ。大学では経済・法律・心理学等の様々な知識を手にした。その知識をフルに活用し、社会に出た後人心掌握の為に使おうとしていた。
大学卒業後は一流企業に就職し、同期をモノともせず出世していった。
5年後、会社を辞めて仏門へ転身した。住職には『下界の人生に嫌気がさしてしまった。自分が生きる意味を探すために修行したい』と言う最もらしい理由を付けて修行僧になった。これが綾善の計画の始まりだった。
彼は寺で身を隠しながら紫龍院教と繋がり密かに金を管理し、信者を増やしていた。
紫龍院教に入門させるため、『簡単に修行が出来る入門コース。健康・ダイエットに効果あり』と言うありきたりな文言を使い一般人を誘い込み、紫龍院教の修行をさせ逃がさないようにしていた。高い知性と金の上納に幹部連中や紫龍院に気に入られ、あっという間に幹部へと昇進した。
その後紫龍院教と神崎のツテで川中と関係を持ち彼を資金援助や選挙活動の協力でバックアップしていった。いずれは政界にも手を伸ばそうとしていた。
だがその計画は破綻した。
せらぎねら☆九樹の義母の手によって紫龍院教の教祖が殺害されたことによって、内部の悪事が世間にさらされ、これまで積み上げ出来た幹部の座も無くなり、寺からも追い出され、更にはバックアップしていた川中は山内に選挙で敗れてしまった。
松山は世間の目から逃れるため、密かに貯めていた資金を使い人目のつかない場所で生活をしていた。紫龍院教を再び復活させるために信者を集めようとしていた所、川中から連絡が入った。
『ワシの復讐に協力してくれ…。山内の協力者、せらぎねら☆九樹…。奴を手駒にし、ワシは政界で返り咲く…!』
せらぎねら☆九樹に接近するべく彼はサバイバルゲームに参加した。適当な消費者金融で借金して、金融業者の仲介をへて潜入に成功した。
サバイバルゲーム中に、川中と連絡を取り蒼空町に隠された秘密を探していた。
紫龍院教を通じて信者から集めたお布施。その全額のうち1500憶の回収。
川内は蒼空町の建設に関わっていたいたため、地下から外に通ずる運送ルートを知っており、松山は信者を使い金の運搬をしていた。
回収した金を使い、川内は力を蓄えるとせらぎねら☆九樹をおびき出すべく事件を起こしていた。
「すべてはあのせらぎねら☆九樹のせいだ。奴が政界に関わってきたせいで全てが狂い始めた。山内が急速に力をつけ動き始めたのもあいつが関わって来てからだ。奴を何としても我が手中に収めてくれる…!」
川中幸雄は川内政権内で従う姿を演じながら逆襲の時を迎えていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
―レンタルオフィス2階
せらぎねら☆九樹は阿久津と都内のレンタルオフィス内に集まっていた。
1日だけ借りてまた別の場所に向かい足跡を付けないようにしていた。
「九樹さん。相手は手段を選ばずにアンタをおびき出そうとしていると私は踏んでいる。罠にはまる前に国外に逃げた方が良い」
「阿久津さん。私は逃げませんよ。紫龍院教が関わっているのなら私は…」
阿久津とせらぎねら☆九樹の話は平行線だった。これ以上被害が出る前にせらぎねら☆九樹はもう存在しないとするため国外に逃げて身を隠すことを進める阿久津。あくまで戦う姿勢を崩さない。
「…九樹さん。あなたに会いたいって人から連絡が…」
「? 誰です?」
電話に出るとそれは思いもよらない人物だった。
「つばささんの仇を取って欲しい」
かつて清志とチームを組んでいた大江戸華美からだった。