南へ進むと、すぐに人の気配は無くなった。
山の中に東西に進む道を発見し、そこを東に進む。
307号という、標識がある。
山に囲まれた、片側一車線の舗装道路だ。
山は相変わらず、道路沿いは雑木に覆われている。
こんなところを分け入って、走り回ったのかと思うと我ながらよくやったと思う。
「信楽? しんらく?」
「うふふ、しがらきです。焼き物の町です」
響子さんが答えてくれた。
「じゃあ、お皿や、茶碗が手に入るということですか」
「はい」
この道は、両サイドに民家がちらほらあり、人の生活のにおいがする。
「おおお!! あれは!!」
工場の前にある、陶器の直売所の前を、掃いている人を発見した。
「おばあさん、こんなところで何をしているのですか」
「見たままじゃ、掃除じゃよ」
「盗賊とかは、大丈夫ですか」
「ははは、自警団もいる。いまのところ大丈夫じゃ」
どうやら、ここは人がまだ残っているようだ。
畑もあり、食べるものが自給できているようだ。
「すごーい、タヌキ、かわいい」
「おばあさん、このタヌキは売り物なのですか」
「元売りものじゃ、今は誰にも必要とはされていないだろうのー。ほしければ持っていくか?」
「本当ですか? ほしいです。なんだかシュウ様みたい」
響子さんとカノンちゃんがでかいのを両手に抱えた。
スケさんとカクさん、アドまで抱えた。
ばあさんが目を細めて見ている。
うれしいのかな。
「ただ、という訳にはいきませんねー」
「ははは、金なら要らんぞ。使い道などないからのう。気にせず持っていったらいい」
「じゃあ、これなどどうですか」
俺は、カバンから羊かんと醤油と砂糖を五個ずつ出した。
「おおお、これは! よいのか?」
「どうぞ、タヌキのお礼です」
喜んでもらえたようだ。
大きなタヌキを抱えた五人を、ばあさんはずっと手を振って見送ってくれた。
しかし、シュウ様みたいって言われて、あの未来から来た青いロボットの気持ちが少しだけ理解出来た。
――おれは、タヌキじゃねえー。豚だー。
「うふふ、豚ならもっと良かったのに」
響子さんが嬉しそうに言った。
ばあさんから見えなくなると、それぞれが収納魔法で収納した。
途中甲賀流忍術何とかと言う看板を見つけ、そこにも足を伸ばした。
このあたりは、甲賀と言う事らしい。
のんびり観光していたため、名古屋城に着くのに数日かけてしまった。
「とのーー!!」
何やら、全員大あわてだ。
事件の予感がする。
「今日が何日かわかりますか」
「おう……」
おうと言ってしまったが、わかんねー。
こんな世界に何月何日もねえもんだ。
「12月31日です」
カクさんが耳元で教えてくれた。
そして、腕時計を見せてくれた。
「ふふふ、12月31日午後3時50分だ。すでに薄暗いな」
「全く、あずさ様は朝まで待っていましたが、すでに出かけましたよ。すごく怒っていました」
「えっ!?」
「えっ、では有りません。明日は木田本城にて、大評定があります。皆さん準備のため本城にいかれましたよ。残ったのは、私と斎藤と、東と藤堂殿だけです」
加藤も少し怒っているようだ。
「じゃあ、先に行って良いぞ。俺は休む」
「とーーさん!!!!」
「ぴゃーーー!!!」
あずさが、凄い顔でにらんできた。
こ、これは相当怒ってらっしゃる。
折角かわいいメイド服なのに台無しだ。
「とうさんが帰って来ている予感がして、のぞいて見れば、そんなこと言って。許しませんよ!!」
「か、かわいい。近くで見ると余計にかわいいです」
響子さんとカノンちゃんが、あずさに顔を寄せて見つめている。
「ま、まあ! あ、あのー、この方達は?」
あずさは真っ赤な顔をしている。
怒った顔より、その顔の方がいいぞ。
「ああ、途中で拾った。命を預けてもらった人達だ」
「と、途中で拾ったって。犬や猫じゃあるまいし。しかも、美人だし。って、滅茶苦茶美人だし」
あずさも、目を見開いてまじまじと見ている。
見過ぎだよ。さすがに。
「加藤さん」
「はっ」
「とうさんを、お風呂に入れて準備をさせて下さい。明日の朝、迎えに来ます」
「はっ」
「えっ、何? アドちゃん」
アドがあずさのスカートをひっぱった。
「信楽焼のタヌキ?」
「お土産ニャ」
「わあ、ありがとう。とうさんみたいって、とうさん、遊んで来たの?」
ぎゃーー!! あずさの顔が怒りに満ちてきた。少し顔が赤くなってきた。怒りの赤だ。
アドめーー。何てタイミングでだすんだよーー。
「ぴゃーー!!」
だめだーー。あずさが激怒しています。恐い。
俺は、助けてもらおうと、お供五人を見た。
アドは、あずさに頭を撫でられて上機嫌で、俺の事など眼中に無い。
四人は、うつむいてしまった。
あずさが恐いんだ。
「くっくっく」
肩が震えだした。
なーーっ、笑っているのかーー。
「今は、忙しいので話しは後です。本城は猫の手も借りたいぐらい忙しいので、アドちゃんは借りていきます」
あずさはタヌキを持って、アドと名古屋城の屋根に移動して、金のしゃちほこの背に、タヌキをおいて、手をかざし何か魔法をかけて、消えてしまった。
どうやら、本当に忙しいようだ。本城に移動したのだろう。よかった、よかった。
タヌキの焼き物は、金シャチの背でこっちを見ている。
きっと、落っこちないように防御魔法でもかけたのだろう。
「はーっ! こんなことなら、もう二、三日遊んでくればよかったよ」
「なっ、なんですと!!!!」
ぎゃーー、加藤まで激怒させてしまった。
もともと、恐い顔なのに、もっと恐くなったよ。